俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(下)
第11部 支離滅裂な膝枕
親族の集まりこそ
芝居の真骨頂
あんたがいなくちゃ
話にならない
そう丸めこんで
連れてきたチェジュ
こんな
ド田舎くんだりで
奴と出くわすことじたい
因果なケチのつき始め
あんたと見るや
懲りずに言い寄る
あのしつこさ
相変わらずで
恐れ入る
いいかげん
正気もどっかへ
吹っ飛んで
スーツ着たまま
取っ組みあった
取っ組みあって
おさまる程度の
腹の虫なら
苦労はない
罪もない
板ばさみの
あんた相手に
勢い余って
八つ当たり
「今後いっさい
ほかの男と
目なんか合わすな
話も聞くな
おしゃべりなんか
もってのほか」
越権行為は
百も承知
あんたが
ほかの男としゃべると
腹が立つ
それだけだ
理由もくそも
あるもんか
だけど慌てて
言い足した
「心配するな
天地が
ひっくり返ったって
あんたに惚れるなんて
ありえない
いくら芝居でも
貞操は守れ
それだけのこと
勘違いするな」
身勝手も身勝手
こんな文言
あの契約書の
どこ探したって
あるはずもなく
我ながら
支離滅裂も極まれり
「もう限界だ
何様だ
先にソウルに
帰ってやる」と
案の定
あんたはむくれて
みるみる
瞬間湯沸かし器
無理もない
はるばるチェジュまで
来てみれば
突然 狂った相方が
亭主関白
気どってみせて
あんたにしてみりゃ
堪忍袋が
もう二つ三つは
欲しいよな
だけどあんたの
これっぽっちも
人に媚びない
ただ真っすぐな
喜怒哀楽
今じゃそれこそ
俺の精神安定剤
薬屋なんかじゃ
絶対手には
入らない
俺の笑いの特効薬
他の男に
譲れるもんか
笑いたくても
笑えなかった
この3年
今じゃまるっきり
嘘みたいに
毎日が
抱腹絶倒
俺がちょっかい
出すたびに
間髪いれず
義理がたく
はね返ってくる
あんたの反応
その小気味よさに
クスッとして
その奇想天外さに
呆れて吹き出す
吹き出しながら
何とか一矢
報いてやるって
いつのまにか
躍起になってる
いきり立つ
あんたを無視して
無理やりさせた
膝枕ならぬ「腹枕」
しかも見事な
三段バラだ
寝心地は
天下一品
保証付き
人の体温って
いやらしい意味じゃなく
いいもんだ
あんたのド派手な
オカンムリぐらい
屁でもなかった
膝の上だか
腹の上だか
寝っ転がって
目を閉じたら
3年分の泣き言が
芋づるみたいに
勝手に口から
飛び出した
話すつもりなんか
これっぽっちも
なかったのに
俺の運転で
起こした事故
死んだ兄貴と兄嫁と
片や のうのうと
生き残った俺
その3日後
理由も言わずに
ふっつり消えた
俺の恋人
以来一切
音沙汰なく
その日唐突に
終わった恋
一瞬にして
俺は3人に
置いてきぼり
悔んで
絶望して
自暴自棄に
なって3年
あっという間の
3年
あんたの膝で
泣いた
親にも言わない
繰りごと言って
泣いた
あんたはただ
黙って聞いてた
童話に出てくる
モモみたいに
膝の上の
俺の頭
何度も黙って
なでてくれた
モモみたいに
サムスン
いつかいっしょに
ハルラ山に登ろう
目の前に見えてる
あの山だ
事故のあと
俺がひとりで
登った山
立ち直ってやる
忘れてやる
行きも帰りも
お経みたいに
悲壮な顔して
唱えた山
あのときは
正直ちっとも
楽しくなかった
だけど
あんたとなら
ハルラ山も
まちがいなく遊園地
ふもとから頂上まで
しゃべりどおしで
笑いどおしで
くたびれ果てるに
決まってる
それも口が
まちがいなく
足より先に
口がイカれる
賭けたっていい
そんなズッコケ登山
あんたとしてみたい
サムスン
近いうちに
いっしょに登ろう
作品名:俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(下) 作家名:懐拳