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カラータイマーガール

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「男は馬鹿だった。人が帰る場所って家じゃないんだ。拠り所となる人間の存在なんだ。男は女がいなくなって、自分が女のことを好きだったことに気づいた。なんであの時、自分は拠り所になろうとしなかったのだろう、なんで真剣に向き合おうとしなかったのだろうと悔やんだ。馬鹿な男だ。それ以来、男は恋ができなくなった。罰が当ったのさ。」
「女は雪が嫌いと言っていた。雨は流れていくが、雪は積もってしまうって。留まることが嫌いなんだそうだ。」
 もっちんの煙草の灰が落ちそうだった。もう一言でもしゃべったら、落下するだろう。
「私は好きよ、雪。積もるからいいのよ。私はあなたのもとに留まりたい。私の拠り所はあなたで、あなたの拠り所は私。」
 私はもっちんを見つめた。そして顔を両の手のひらで優しく包んだ。「もう昔話は聞きたくない。私はとても今幸せよ。あなたが好き。さあ、あなたも愛してるって覚悟を決めて言って。年の差なんて関係ないって。」
 もっちんは顔を赤らめ、しばしの後、愛の言葉をささやいた。しわだらけの頬を緩め、白髪頭を掻きながら。そして、おもむろにポケットから紙袋を取り出した。
「プレゼントだ。有難く頂戴したまえ。」
 ちょっと偉そうだ。紙袋の中には、ウルトラマンのカラータイマーがあった。なぜに?
「これから大変なことが多いだろう。なんと言っても年の差が半世紀もある。だけど、つらいことがあってもさ、帰るところはあるよってことだ。シュワッチって飛んで来い。」
 これが七十五歳の口説き文句なのか、もっちん。よくわからんが大好きだ。
 会計をすませ、二人で外に出た。道路には雪が積もっていた。積もれ、積もれ、もっと積もれ。自分の存在を強く主張しろ。
 ふらりと肩を並べて歩きながら、私はカラータイマーを胸に当ててみた。ウルトラマンになったような高揚感が湧き上がった。
 スイッチを押すと青くきれいな色で点灯した。がすぐに、赤く点滅。あれれ、もうピンチですか、早くないですか? おーい。 
 もっちんはきょとんとした顔でカラータイマーを眺めていた。その顔がとても愛しい。
「シュワッチ!」
 彼の胸に飛び込まずにはいられなかった。
作品名:カラータイマーガール 作家名:青岳維鈴