小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
つだみつぐ
つだみつぐ
novelistID. 35940
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

農薬の話

INDEX|8ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

2-5.農民にとっての農薬被害




 以前「野菜を作る人は自家用の分だけ農薬をかけないそうじゃないですか、無責任だと思います。」との意見を聞いた。食の安全を追求する市民運動に携わる方だった。
 本当に自己中心的な消費者だと思う。
 自家用の野菜に農薬をかけないのは「商品」ではないし、百姓は虫が付いていても気にしないし、農薬は高いからである。「自分だけ助かろう」としているからではない。
 だいいち、農薬を使う百姓(99%の農民)は消費者とは比較にならないほどの大量・高濃度の農薬に毎日さらされているのだ。農薬のかかったきれいで安い野菜を買う消費者がそうさせているのだ。

 毎年のようにどこかで「農薬事故」が報道され、時には百姓が死んだりしている。また、百姓が自殺する手段は「農薬を飲む」のが1位である。コップ1杯飲めば確実に死ねるからだ。「農薬を散布する場合必ず雨合羽を着用」と指導されているけど、真夏などそんな格好で農作業などしたらかえって具合が悪くなるから誰も守っていない。「散布後はアルコールを摂取しない」との指導もどれだけ守られているか。でも、事故があった際には「散布基準を守らないから。ちゃんと守れば安全上問題がない。」といわれてしまうのだ。
 農水省統計によると平成12年から16年の5年間で農薬散布中に死亡が3名、誤用(誤飲・誤食等)が9名、計12名が死んでいる。中毒は96件324名。この統計には自殺者を含んでいない。
http://www.maff.go.jp/nouyaku/15jiko-higai-list.htm
 農薬による自殺者はこれよりずっと多いと思われるが、その統計は農水省・厚労省どちらのサイトにも見あたらない。私の部落でも10年ほど前に1人いた。農薬(農薬名不明)原液一瓶を飲んで、すぐに家族が医者に通報したがしばらくして駆けつけた医者は農薬の瓶を見るなり「あ、これは助かりません。まもなく体が真っ黒になって亡くなります。」と宣言し、その通りになったとのことである。
 こうした被害は、残留農薬の毒性が食物経由つまり消化器経由の慢性毒性であるのに対し呼吸器経由の急性毒性の問題である(原液を飲んだ場合を除いて)。このほかに当然呼吸器経由の慢性毒性が考えられる。有名なのは佐久総合病院が明らかにしたリンゴ産地周辺児童の視力低下である。「佐久眼病」と名付けられた。
 東京の大平さんや吾妻町の岩崎さんのように有機農業のリーダーにはかつて農薬を多用して体調を崩し農薬と絶縁する決心をした方々が多い。大平さんは片目の視力をほぼ失ってから。これらは散布した農薬を呼吸器から取り込んでいると思われる。
 しかし、呼吸器経由の慢性中毒の実態についての統計は見あたらない。ないのかもしれない。何年もしてから視力や聴力の低下、免疫力の低下などが現れたとしても農薬との因果関係が証明できないからなのか。ましてや有機リン系農薬(殺虫剤の80%)による精神症状など。なぜ米どころの秋田県は全国一自殺率が高いのか。
 長年にわたって農薬を散布することで肺に吸い込む農薬の量、それによる身体・精神症状、その調査がなぜなされないのか。疫学的に、全国の農民で、たった一つの指標、例えば肝機能の低下だけでもいい、農薬散布の多寡との相関を調べてほしい。もちろん飲酒など他の要因を除かないといけないがそれは統計学的手法を用いれば容易なはずだ。
 農薬による被害を一番それも桁違いに受けているのはそれを散布する農民自身であることは私には自明のことに思われる。たとえ消費者が安くて外見のきれいな野菜を望んだとしても農民自身が農薬を拒否すべきなのだ。人間のいのちを育てる食べ物を育てる者はまず自分自身の命を守らなければならない。


作品名:農薬の話 作家名:つだみつぐ