無農薬ということ
9.共に生きるということ
提携の十カ条を読めば、消費者と生産者が直面した困難とそれを乗り越えようとした長い試行錯誤の歴史を感じ取っていただけたと思います。始めからうまくいくわけではないのです。それでも新しい関係の中で「共に生きよう」という意志が道を切り開いていくのです。
「根圏」という言葉を知っていますか。植物の根のまわりはただの土とは違い、「根圏微生物」と呼ばれる多種多様な微生物のすみかとなっています。植物の根は各種のアミノ酸やその他の化学物資を分泌して微生物を養ったり有害な微生物の増殖を抑えたりしています。そして微生物は土の中の養分を根に運んだり植物の生育に役立つ物質を分泌したりしています。「根圏」は植物と微生物が共に生きる場なのです。
植物と動物の関係もそうです。地上にまだ植物だけが生きていた頃、増えすぎた植物が排泄する有毒ガスが地球上全てを汚染していました。その時その有毒ガスを消費して植物になくてはならない炭酸ガスを排泄する生物が誕生して植物は救われました。その「有毒ガス」とは酸素であり、誕生した生物は動物です。
例を挙げればきりがありません、というより、全ての生物がささえあい活かしあって生きている、少なくとも進化の歴史の中で生き残ってきた生物はすべて。(多分そうでない生物は淘汰されたのでしょう。)もちろん、人と他の生き物も、そして人と人も。
だから「共に生きる」というのは道徳でもなく、倫理でもありません。目を開けばそこに見える、当たり前の事実です。ただ私達の観念(イデオロギー)がその事実を覆い隠し見えなくしているのです。
消費者と生産者が共に生きる方法をさがすこと、人間とやさいとが、やさいと微生物とが、やさいとやさいの害虫とが、共に生きる道をさがし続けること、そのことが私達をしばりつけ私達を苦しめている誤った生き方から私達自身を解放する道なのです。
そして私達が誤った生き方から解放されることが「人間という種」が生き残っていく唯一の道です。それができないとき、進化の袋小路に入って絶滅していった多くの種と同じ運命が待ちうけています。地球全体が生き残るためにそのことが必要なのです。