黒騎士
他の人と自分が違うことに気付いたのは10歳の頃だった。
確かくだらない理由で激怒した時、ふと鏡に映る自分を見ると、俺の瞳の色は真っ赤になっていた。その時は錯覚か何かかと思ったが、同級生と喧嘩した時も同じ事が起こって「お前はおかしい」と言われて一部で化け物だと思われていた。
大人になるにつれて些細なことで、イラついただけでも目の色が変わるようになり、そんなことで色んなモノを失いたくないと思って、今は青い目をしてるのに青いカラコンをするようにしている。買う時に「こいつはバカか?」と薬局のオヤジは思ってるに違いない。
27年間、その目を親にも隠してきたと言うのに、あの小僧はこの目のことを知っていた。
その理由が分からないまま朝を迎えた。
「おはよう、ナイル」
「あぁ、おはよう」
「コーヒー持ってきましょうか?」
「頼む」
ろくに寝てないことが分かったのかアシスタントのケリーがそう言った。俺の仕事は高級車のディーラーで、ごく普通の暮らしをしている。平日は真面目に仕事して、休日は同僚と飲みに行ったり、時々女の子とどっか行ったりする。
「はいどうぞ、昨日夜更かしでもしたんですか?」
「まぁな」
「お客さんの前ではシャキッとしてくださいね」
「分かってるよ」
くすっと笑いながら席に戻るケリーを見て、いつもなら可愛いなとか思うのに、今日は全くそんな気分になれなかった。
「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
そう声をかけていたのは同僚のマークだった。マークは同僚であると同時に俺の親友でもある。
「あー、昨日ちょっとな…」
「なんだ、またナンパ絡みのことか?」
「違うけど違くない」
「どっちだよ」
「違うけどなんか面倒なことになりそうで…」
「まー、なんかあったら連絡しろよ。俺様が助けてやるから」
「そりゃ心強いこと」
バシッと俺の肩を叩いてマークは笑顔で客の方へ去って行った。叩かれたことで何となくモヤモヤしていたモノが取れたような気がして、その日の仕事を無事にいつも通り終えることができた。
仕事終わりにマークと飲みに行って昨夜のことを話したが、「ただの悪戯かなんかでお前をからかってるんだ」と言われ、俺もそう思うことにした。
俺は俺、俺の秘密を知ってる奴が突然現れたからと言って今までと変わらない、変えようとしなければ何も変わることはない。
そう思うことにした。
しようとした。
結果。
俺は午前0時ちょうどに西の広場のド真ん中に立っていた。
正門の前に昨夜の小僧が立ち、俺が来ることが分かっていたかのようにムカつくほどの笑顔で言った。
「来てくれるって信じてましたよ」
「俺をどーするつもりだ?」
「一緒に来てくれれば分かります」
「戻れるんだろうな?ここへ」
「貴方が望むならいつか」
「そりゃ戻れないって言ってるよーなもんだな」
「すべてが終われば叶うことです」
すべてが終われば…その言葉を聞くと同時にもう戻れないと直感した。
たかが自分の秘密を知るために、何が待っているか分からない場所に、何も知らずに行こうとするなんて馬鹿しかしないだろう。
だが、残念ながら俺は馬鹿野郎だ。
「俺をがっかりさせたら俺がお前を殺してやる」
小僧は満足気にすると正門を開き、深い暗闇へ俺を誘った。
to be continue…