帰れない森 神末家綺談5
「さっき、夢で・・・」
漆塗りの箱を持って振り返る伊吹の顔が、蝋燭の明かりに揺れている。この箱を見つけた経緯を、伊吹は静かに語りだす。
「・・・ちょっと、信じられないけど、それってすごいことだよね」
信じがたい話だった。夢と現実がリンクしたのか、瑞の心だけが夢を通して伊吹に会いにきたというのだろうか。
(これが、血の契約に由来するものなのか。それとも、二人の間だけに介在する絆というか・・・そういうものが作用したのだろうか)
箱を抱えて畳に座る伊吹を見つめて、紫暮は改めて思う。
(この子は、すごい)
流れている血や、与えられている力を言うのではない。瑞に、それも無意識ともいえる意識下にまで訴えかけるほどの何かを、この子どもは持っているのだ。
「開けますね・・・」
重たい鎖の繋ぎ目にある南京錠を外し、伊吹がぐるぐる巻きにされた鎖を解いていく。ジャラジャラというさび付いた耳障りな金属音をたてて。やがて厳重に巻かれた鎖が解かれて、箱がその全貌を現す。
「・・・箱自体は、それほど古いものではないな」
紫暮は箱を観察する。文箱というやつだろう。
「・・・じいちゃんがやったんだ」
伊吹が言う。
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白