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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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幼い時の記憶では

木製の風呂桶のような樽のなかには

透明な水が入っていたと思う

青年になって観た時の記憶では

水草が生え生き物が住んでいたように観えた

水面は小さな波が立ってもいた

3度目に観たとき

もう還暦を過ぎていた

桶のなかの水は半分以下になっていた

既に水草は枯れ生き物もいる気配はない


まるで自分を観ているように感じた

年を重ねるたびに

自分から何かが蒸発して行く

金銭欲であるかもしれないし

出世欲かもしれない

当然性欲もそうだ

身体のなかで動きあがいていた生き物も

死に絶えたのかもしれない


たぶん

水が枯れる頃僕は死を迎えるだろう

桶のなかが無になる様に

僕はすべての欲から解放されるだろう

桶には新しい何かが待っているだろう

僕にも何かが待っているかもしれないが

僕がその事を知ることはできないけれど

僕の身体から抜け出したものたちが

きっと何かの形になっているように思う

作品名: 作家名:吉葉ひろし