三部作『三猿堂』
暑さ厳しく夜になってもまだまだ暑い。いつものことであるが、閉店間際はあまり客は入ってこない。
「今日は早いけど閉めてしまいましょうか……」
店主は店内を一様に掃除したあと店先に出て、『三猿堂』の看板を下ろした。看板の横にあるツバメの巣にはもう何もおらず、しばらくの空き家となっている。
「おや……」
店主は道路の向こうに目を遣った。コンビニの前を一組のカップルが通りを歩いている。よく見れば先日商品をお買い上げになったお客様だ。
「ほぅ、そういうことですか――」
店主はそうつぶやきながら「三猿堂」の看板を店の中に入れ、店内から外の通りを見つめた。
「人のウワサは七十五日、それだけ経てば見えてくるものです」
店主はそう言ってカーテンを掛けて灯りを消すと、街の通りはまだまだ賑わっているのに、三猿堂の周辺だけは不思議と水を打ったように静まり返っていた――。
* * *
人に言いづらいお悩みがあったら、ぜひここ三猿堂にお越しください。きっとあなたに合うものがおありかと思いますよ、ただ、それを役に立てられるか否かはお客様次第なのが難点ではありますが。それでは、また――。
三部作『三猿堂』 おわり