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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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視点

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以前勤務していた学校の脇の路を自転車で通るたびに、塚原は迷った。正門わきの植え込みのどうだん躑躅の、手入れが行き届かずに立ち枯れされたまま何本もあることだ。植え込みは100メートルほどある。枯れ木は50本は有ると思われた。塚原が勤務していた頃は用務員の方と環境美化担当の塚原が協力して特にこの植え込みには気を使っていた。植え込みの前の路は国道で通行する車も人も多かった。人目につくのである。
 6月になると用務員の長谷川はトリマーで綺麗に刈り込んでくれた。角は直角天は水平植え込みの端から観れば縦は壁のように凸凹はなく、散髪を済ませた青年のようなすっきり感を感じた。
 植え込みのなかの雑草は生徒たちが清掃時間に担当した。いつも綺麗になっていると、歩道を歩く生徒も登校や下校の時に雑草を取ってくれた。
 どうだん躑躅は春には可憐な白い花をつけ、秋には赤く紅葉してくれる。手をかければかけただけの恩返しをしてくれた。

植え込みを気にかけていたのは塚原の他にもいた。さくら女子高校に勤務している相沢である。彼は環境美化担当であった。用務員に交渉しても刈り込みはしてくれず、生徒たちは、『手が汚れる』とさぼってしまう。せめて枯れたどうだん躑躅を換えようと事務長に相談しても『予算がないです』と断られた。結局相沢は自分で雑草は抜き取っていた。
 夏休みになり、中学3年生の学校訪問が始まった。引率の父兄から「学校は荒れていると噂を聞きましたが、確かに植え込みを観ても感じられますね』と意見が出された。
 初めて校長は植え込みをしみじみと観た。学校要覧の大学の進学率の事ばかりが気になっていた彼は立ち枯れの木を観ながら、しみじみと花や木の美しさに触れた事がなかった事に気が付いた。
 翌春になり、校長は転勤となった。立ち枯れたどうだん躑躅の後に小さな若木が白い花をつけた。
塚原は自転車を走らせながら身体にあたる風が青い林檎の香りを運んで来てくれるように感じた。長谷川さんが刈り込みをしてくれたあとの香りなのだ。もしかすると戻って来てくれたのかもしれない。
綺麗だと気持ちがいい。気持ちがいいと楽しい。楽しいから生きている感じがする。だから張りきれる。そんな感じだ。塚原はすれ違う生徒に朝の挨拶をかけながら自転車を走らせた。


作品名:視点 作家名:吉葉ひろし