私を呼ぶ声
私は空になったグラスを流しに置くと、玄関に戻った。
放り出したままのランドセルを拾い上げたときだった。
2階から、母の声が聞こえた。
「ゆーこちゃーん、ちょっと、こっちに来て。」
私が階段下から2階を見上げると、いつのまにか2階のライトが点灯して、明るくなっていた。
「なんだ、お母さん、いるんじゃん。」
私はそう呟いて階段を上り始めた。
とんとんと階段を2・3段上がったところで、再び母の声が聞こえた。
「ゆーこちゃーん、ちょっと、こっちに来て。」
私は、「はーい、今行くよ」、と応えて階段を上がった。
階段を真ん中へんまで上った辺りで、私はふと、なんとも言えない変な感じを覚えた。これが違和感ってやつなんだろうか。
なぜなら、母は私のことを、『ちゃん』付けで呼ぶことがなかったからだ。
私は、「なんか変だな」、と思いながら、階段を上った。階段を上るスピードは、さっきまでの半分くらいになっていた。
ちょうど目の高さと2階の廊下が同じ高さになるくらいまで階段を上ると、2階の廊下の奥まで見渡せるようになった。
2階の廊下の奥の突き当たりは、父と母の寝室になっていた。
私が2階の廊下すれすれの高さの視点で2階の廊下を見渡していると、その廊下の突き当たりの父と母の寝室のドアが、音も無くゆっくりと開いて行くのが見えた。
とたんに、ぱちんと2階の廊下のライトが消えた。
作品名:私を呼ぶ声 作家名:sirius2014