俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(上)
第6部 恋人芝居
「サムスン
恋人芝居しよう」
顔見てりゃ
5分に1度は
カチンと来るし
男と女なんて間柄
太陽が西から
昇ったって
あんたと俺には
縁がない
だけど
角突き合わせる
相手としては
うってつけ
ストレス発散
したくなったら
サンドバッグか
キム・サムスンだ
あんた以上の
相手なんか
男にだって
そうそういない
とはいえ
こんな胸の内
バカ正直に
明かそうもんなら
金輪際
口利かないのは
目に見えてるし
今さら
友達なんて
年じゃなし
お互い大人だ
ここはひとつ
スマートに
行きたいところ
「お袋の
性懲りもない
見合い攻勢に
いいかげん
うんざりの俺
脈もないのに
休日たんびに
見合い三昧で
懲りないあんた
いかにも
ベストコンビだろ?
礼は弾むよ」
大義名分としちゃ
悪くない
だけど
あんたのことだから
二つ返事で
のってくるとも
思えなかった
「それって詐欺でしょ?
私に片棒かつげって?
悪いけど
そんなに暇じゃ
ないのよね」
案の定
にべもなかった
のみならず
「恋人芝居?
世間知らずの
お気楽息子が
思いつきそうな
ちゃちな たわ言
結婚なんか
まだしないって
きっぱり言えば
すむものを
母親ひとり
説得できない
マザコンに
レストラン経営が
聞いて呆れる」
間髪いれずに
非難ごうごう
しかも100%正論で
第1ラウンドは
即ゴング
でも1週間も
たたないうちに
突然降って湧いた
第2ラウンド
あんたの方から
折れてきた
もじもじするには
及ばない
一方的な
金の無心なら
いざ知らず
取引に
対価の請求は
世の常識
芝居さえ
する気があるなら
気後れ無用
500万?
二言はないな?
あんたにとっちゃ
生きるか死ぬかの
額らしい
ひきつった
その顔見てりゃ
バカでもわかる
今に見てろよ
芝居の契約
あんたに「うん」と
言わせてやるって
気ばかり焦って
思案に暮れてた
次の一手
人の不幸に
つけこむつもりは
さらさらないが
敵の方から
折れてくるなんて幸運は
そうそう滅多に
あるもんじゃなし
棚から落ちたボタモチに
何で落ちたと
訊いてみるほど
野暮でもないが
勝手に落ちたボタモチを
食べもしないで
放っておくほど
お人好しにも
生まれちゃいない
あんたの不幸の理由にも
500万の使い道にも
興味はない
せっぱつまった
あんたの倫理観が
イカれてくれてるうちが花
きっかり500万
その場で即刻
振り込んだ
無造作に
パソコン叩いて
送金完了
-あんたの気が変わる前に-
それしか
頭になかったから
それからあんたを
引きずって行って
昼メシどきの
スタッフたちに
爆弾発言
予告もなしに
恋人宣言
レストランじゅうが
一瞬で
証人と化した
こうして
500万 用立てた
見返りに
あんたは
俺の彼女になった
そして俺は堂々と
あんたの彼氏に
おさまった
いやちがう
あんたの彼氏という権利を
俺が500万で
買っただけ
俺が失敗したオファー
勝手に
蒸し返して
きたのはあんた
無理強いなんか
しちゃいない
長いこと
この事実だけが
俺にとっては唯一の
免罪符だったはずだけど
どんなへ理屈
こねたところで
俺がしたのは
何のことはない
500万もの
“ヒモつき”の
高飛車で
姑息なナンパ
ご丁寧にも
世にも奇妙な
契約書まで
取り交わして
<恋愛契約書>
1ヒョン・ジノンと
キム・サムスンは
2005年12月31日まで
恋愛しているふりをする
2ヒョン・ジノンは
キム・サムスンに
スキンシップ厳禁
但し やむをえぬ場合は
双方合意の上とする
3二股をかけてはならない
4キム・サムスンは
ヒョン・ジノンが
嫌がる質問をしない
5ヒョン・ジノンは
キム・サムスンの人格を
尊重する
6恋愛のふりはしても
恋愛はしない 絶対に
以上
作品名:俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(上) 作家名:懐拳