死滅回遊魚の鳩尾
神に祈りを、祈りを、祈りを!
「神に祈ればいつか叶えてくれるのです。我々の声は届き、救われるのです」
胸の前で手を組み俯いて祈りを捧げる人、人、人。
そう、祈れば救われるのだ。
最近新興宗教を布教している罪深い輩が国中を練り歩いているという噂を聞く。
「神よ彼らの罪を許したまえ」
私は祈った。そうすることで救われると思った。そうでしか救われないと思っていた。
「この国を出る?本気なのですか?」
翌日教会に姿を現した男達は頷いた。
軽く眩暈を覚える。何故彼らは分からないのだろう。
「神父さんもご存知でしょう?この国の重税を」
この国、ヴェルシィの税はかなり重く、特に農民への税は全体の半分を占めている。
「おら達はもう我慢ならねえだ。働いても働いても生活はちっとも楽になんねえ。」
「このままじゃ飢え死にしてしまう」
「もうここでは生きていかれねぇだよ。」
男達は口々に救いを求めている。救いへ導くのは私ではないか。
「皆さん、祈りましょう。祈れば神が救って下さいます」
そう、信じる者は救われるのだ。
「祈ったって腹は膨れねぇだよ!」
「神父さん、この間ギルデュークが死んじまった。誰よりも熱心に祈ってたのによ。餓死だった。これがあんたの言う救いってやつか?」
違う、何故神を信じない、何故私を信じてくれない。
私の反論は口から出る前に遮られた。誰かが教会の扉を開け、中へ入ってきたのだ。
「ならば、あなたの信じる神とやらの力を見せていただきましょう」
「教祖様!」
教祖様と呼ばれた女は返事の代わりに男達一人一人に微笑み返した。慈悲というより威圧を感じる笑み。
「あなたが…。」
この国の民を狂わせた、元凶。
女は私の前に立つと、その微笑みを一瞬だけ消した。
「あなたの信じる神は祈れば救ってくれるのだとか」
「ええ、神は我々の声を聞き、叶えて下さる。救って下さるのです」
「でしたら…。」
教祖は懐からナイフを取り出した。鋭く光を反射する。
「あなたは神に生きたいと強く祈りなさい。私があなたの心臓を貫いて尚生きているのなら、私は心から懺悔しどんな罰でも受け入れましょう」
私は理解するのに暫くかかった。この女はこともあろうに殺すと言ったのだ。この私を。
「そんなこと、神が許すはずありません!許されてはいけないことです!」
私は声の限りに叫んだ。それは聖職者としての心か、死の恐怖からくる生命維持本能か。それでも、聞いていないかのように、女は続けた。
「神に近いと傲る者は言います。救われないのは祈りが足りないからだと」
「神を認識するのは私達です。神が創ったとされる景色、音全てが認識出来て初めてそこに在るのです。
目の見えない者に色はありません。耳の聞こえない者に音はありません。同じように、生まれたばかりの赤子に神などいないのです」
「あなたの神は、あなたを愛でてくれますか?」
胸に圧迫感と鈍い痛みを感じて視線を落とす。しかしその前に体が重心を失いよろめき、私は倒れた。
次第に景色も音も霞み、遂に私は神を見ることも聞くこともなかった。
「神に祈ればいつか叶えてくれるのです。我々の声は届き、救われるのです」
胸の前で手を組み俯いて祈りを捧げる人、人、人。
そう、祈れば救われるのだ。
最近新興宗教を布教している罪深い輩が国中を練り歩いているという噂を聞く。
「神よ彼らの罪を許したまえ」
私は祈った。そうすることで救われると思った。そうでしか救われないと思っていた。
「この国を出る?本気なのですか?」
翌日教会に姿を現した男達は頷いた。
軽く眩暈を覚える。何故彼らは分からないのだろう。
「神父さんもご存知でしょう?この国の重税を」
この国、ヴェルシィの税はかなり重く、特に農民への税は全体の半分を占めている。
「おら達はもう我慢ならねえだ。働いても働いても生活はちっとも楽になんねえ。」
「このままじゃ飢え死にしてしまう」
「もうここでは生きていかれねぇだよ。」
男達は口々に救いを求めている。救いへ導くのは私ではないか。
「皆さん、祈りましょう。祈れば神が救って下さいます」
そう、信じる者は救われるのだ。
「祈ったって腹は膨れねぇだよ!」
「神父さん、この間ギルデュークが死んじまった。誰よりも熱心に祈ってたのによ。餓死だった。これがあんたの言う救いってやつか?」
違う、何故神を信じない、何故私を信じてくれない。
私の反論は口から出る前に遮られた。誰かが教会の扉を開け、中へ入ってきたのだ。
「ならば、あなたの信じる神とやらの力を見せていただきましょう」
「教祖様!」
教祖様と呼ばれた女は返事の代わりに男達一人一人に微笑み返した。慈悲というより威圧を感じる笑み。
「あなたが…。」
この国の民を狂わせた、元凶。
女は私の前に立つと、その微笑みを一瞬だけ消した。
「あなたの信じる神は祈れば救ってくれるのだとか」
「ええ、神は我々の声を聞き、叶えて下さる。救って下さるのです」
「でしたら…。」
教祖は懐からナイフを取り出した。鋭く光を反射する。
「あなたは神に生きたいと強く祈りなさい。私があなたの心臓を貫いて尚生きているのなら、私は心から懺悔しどんな罰でも受け入れましょう」
私は理解するのに暫くかかった。この女はこともあろうに殺すと言ったのだ。この私を。
「そんなこと、神が許すはずありません!許されてはいけないことです!」
私は声の限りに叫んだ。それは聖職者としての心か、死の恐怖からくる生命維持本能か。それでも、聞いていないかのように、女は続けた。
「神に近いと傲る者は言います。救われないのは祈りが足りないからだと」
「神を認識するのは私達です。神が創ったとされる景色、音全てが認識出来て初めてそこに在るのです。
目の見えない者に色はありません。耳の聞こえない者に音はありません。同じように、生まれたばかりの赤子に神などいないのです」
「あなたの神は、あなたを愛でてくれますか?」
胸に圧迫感と鈍い痛みを感じて視線を落とす。しかしその前に体が重心を失いよろめき、私は倒れた。
次第に景色も音も霞み、遂に私は神を見ることも聞くこともなかった。