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暗躍甲冑の後味
暗躍甲冑の後味
novelistID. 51811
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死滅回遊魚の鳩尾

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軸がぶれてる

ふわふわする。足が浮いている。
いや、物質的にはちゃんと地に足は着いている。当たり前だ。
しかしどこか浮いている。違和感。浮遊感。柔らかい布団の上を歩いているような。
油断するとバランスを崩し、傾く。そう、傾いている。
脳が思わず修正してしまうほどのわずかな差分だけ各々傾いて。

視界もぶれて一人が二人、三人と増えていく。
いやいや。緊迫した空気の中頭を振る。一人が増えているのではない。
似たような風貌が多いだけだ。建物の影から明るみに出ただけだ。
視界は良好。ピントも合っている。心拍数も正常範囲。
大事な局面で現を抜かすなどプロ以前にボディガードとして失格だ。
私情で守り切れなかった、なんて後悔してもしきれない。

わらわらと出てくる敵の数。ざっと十数人。皆一様に銃を構えている。
そんなもの。手の中にある小ぶりのナイフを感触だけで確かめる。
下手をすれば掌に収まってしまうほどのサイズ。しかし今となってはそれがいい。
武器の存在を知らせてしまえば警戒させることは必至。ならば丸腰だと油断を誘い、そこを衝く。
ここにいる奴らはそれ程手練れではないだろう、と身のこなしで判断する。
動き続けていれば照準を合わせ切れずに弾は当たるまい。そうして近づき、的確に首を狙う。
手や足と違い動きの少ない一番の急所。深く一閃する。

ビルの中に入る。当然敵はいるが問題ではない。壁が多ければ多いほど銃は不利なのだ。
そして。一発。二発。暗がりで銃口から噴く火がよく見える。五発。六発。
弾を使いきってしまえば、補充するまでそれはただの飾りだ。
その隙に間合いを詰める。容易い。こいつらは本当にボディガードなのだろうか。
ただ金で雇われたゴロツキではないのか。だがどんな事情があれど関係ない。
敵となる因子がわずかでもあるなら芽吹く前に摘み取るだけだ。
あの人から少しでも危険を遠ざけるために。
銃声。怒号。足音。血飛沫。肉の感触。生温い臭い。死屍累々。

「こっちだ!」
近づいてくる足音。まだいるのか。早く片付けなければ。
「――様を守れ!!」
「――様を自分だと思って守れよ!」

"「守る」というのは常に受け身でなければならないよ。攻められて初めて守れるのだから"
ふと過る言葉は誰のものだったか。師匠か。先輩か。父か。母か。守りたかったあの人か。
この仕事に就いてから間もない頃に言われた気がする。
月明かりの中血だまりに映る自分の顔。まんべんなく返り血を浴びたその姿は本来のものとは程遠く。そこら辺のゴロツキと変わりなく。
「いたぞ!」
振り向けば複数の銃口が正確にこちらを向いている。身を隠せるような曲がり角は少し遠い。

ああもう、だから大事な時に現を抜かしちゃだめだってば。