フリーソウルズ
#2.コンビニ乱闘
#2.コンビニ乱闘
市街地
(裕司の幻覚)
防波堤に背中を向けて座る制服姿の女子学生。
海風に長い黒髪がたなびく。
“キリちゃーん!”
名前を呼ぶ男子学生らしき若い声が聴こえる。
背中を向けていた女子学生がゆっくり振り向く。
クラクションが鳴り響き、我に返る裕司。
慌ててダンプをよける裕司。
道路端に立ち止まり、息を整える裕司。
周囲を見回すが、女子学生も男子学生もいない。
妄想を振り払って再び走りだす裕司。
程なく走ると、再びサイレンを鳴らしたパトカーに遭遇する裕司。
幹線道路から側道へ折れるパトカー。
側道の先に目をやると、暗がりのなか高架の上で列車が停まっている。
やや気になるが、視線を足元に戻す裕司。
その裕司の視界の端に、小動物が入る。
逆送してその小動物を確かめる裕司。
民家の路地の入口に、無防備に倒れているネコ。
裕司 「どうした?」
裕司が近寄ると、一応牙をむいて威嚇するネコ。
しかし力なく、ぐったりと横たわりその場から動けないでいるネコ。
ネコの体毛に油汚れと血の痕がある。
裕司 「(ネコに向かって)喧嘩でもしたか、それとも車に跳ねられたのか?」
言いながら見過ごそうか躊躇する裕司。
道路を渡った向こう側に路面店のコンビニが見える。
裕司 「(ポケットのジャリ銭を探りながら)待ってろ!」
躊躇を振り切って、コンビニに駆け込む裕司。
奇妙な音階のクラクションを鳴らして3台のバイクがコンビニ前の駐車スペースに停まる。
コンビニ店内でミルクとキャットフードと消毒剤を購入する裕司。
レジ袋を提げてコンビニを急いで出る裕司。
バイクから降りたのは町の不良グループのメンバー、リーダーのカツと、弟分のノブとトンボ。
カツたちがコンビニ入口に向かう。
裕司の持っていたレジ袋がカツのお腹にあたる。
黙って通りすぎる裕司をすかさず呼び止めるカツ。
カツ 「おい! 待て」
立ち去ろうとする裕司の行く手をノブとトンボが遮る。
カツ 「ぶつかっておいて謝罪なしか?」
裕司 「(カツに背を向けたまま小声で)すみません」
カツ 「ちゃんと謝れ!」
裕司が振り返ると、鬼の形相のカツの顔がすぐ目の前にある。
恐怖した裕司の手からレジ袋がすべり落ちる。
気を失ったかのように、カツにしなだれかかる裕司。
裕司の体重を支えた瞬間、その重みに耐えかねてがくっと腰が落とすカツ。
そのまま後方に折り重なって倒れるカツと裕司。
後頭部を強く車止めにぶつけるカツ。
眉間に皺を作って痛がり起き上がれないカツ。
半目のままカツに覆いかぶさる裕司。
ノブ 「兄貴、大丈夫ですか? てめぇ、兄貴からどけよ!」
短い竹刀を振りあげ裕司に襲い掛かるノブ。
意識のない裕司の顔を見て驚くカツ。
反射的に裕司の背中に振り下ろされた竹刀を腕を伸ばして受けとめるカツ。
裕司を庇うように竹刀を跳ねのけるカツ。
ノブ 「え、なんで?」
と思った瞬間、一瞬固まるノブ。
直後、竹刀を胸の高さで支持したまま後方へ身体をねじるノブ。
竹刀の先が背後にいたトンボの顔面を直撃する。
顔面を押さえ、痛がるトンボ。
トンボ 「何すんだよ、いてぇじゃねえか、ノブ」
ノブを睨みながら顔面をさするトンボ。
顔をさするトンボの手の動きが緩んでいく。
唖然として両方の手を見つめるトンボ。
カツ 「(動かない裕司を見て)なんだ、コイツ?」
折り重なった裕司を身体の上から押しのけようとするカツ。
しかし裕司が重くのしかかり起き上がることができないカツ。
カツの苦闘を見て再度裕司に竹刀を振りかざすノブ。
そのノブの横っ腹にタックルのように体当たりするトンボ。
ノブ、トンボともに倒れこみ自分たちのバイクの下敷きになる。
コンビニ店員が物音の驚いて様子を見に出てくる。
目を見開いてカツから離れる裕司。
何事もなかったかのように立ち上がる裕司。
コンビニ店員「(その場にいる全員に向かって)大丈夫ですか」
裕司に「このヤロウ」と言いかけて後頭部を押さえ、その場に座りこむカツ。
衣服の乱れを直す裕司。
道路を挟んだ路地からその光景を見届けてるネコ。
闇の奥に後ずさりして姿を消すネコ。
レジ袋を拾い、路地めざして道路を渡る裕司。
ネコが倒れていた場所に戻る裕司。
手負いのネコの姿が見当たらない。
おい! と叫ぶもののネコはどこにもいない。
レジ袋を提げたまま悄然と立ち尽くす裕司。
七尾家の屋敷
屋敷の庭の楡の大木が淡い三日月の明りを受けている。
葉っぱを揺らしその樹の枝の上を足を引きずるように歩くネコ。
屋敷の二階の出窓。
カーテンの隙間からベッドで休む女子高生、七尾ひめの寝姿が見える。
眠っていたひめの眼が開く。
カーテン越しに窓の外に眼を向けるひめ。
上体を起こそうとするひめ。
顔をしかめ、思わず呟くひめ。
ひめ 「あっ、痛い・・・」
列車事件現場
パトカーの回転灯が辺りを赤く染めている。
周辺道路を封鎖する制服警官たち。
高架線路の上で、鑑識課員が証拠品を収集している。
線路上に停車した列車車内は、すでに乗客が避難し終わっている。
鉄柱に宙吊りになっている運転士の死体に手を合わせる佐賀大輔刑事。
シューズカバーと手袋をはめ、車内に入る佐賀。
通路の床に焦げたスマホを発見する佐賀。
しゃがみこんで、触れていいものか躊躇する佐賀。
商業ビルの屋上の通気塔に、淡い三日月を背景にして一羽にカラスがとまっている。