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落とし物管理局

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ここは落とし物管理局。

 君たちは物をなくした事があるだろうか。それが見つからなかった事はあるだろうか。ここは落とし物管理局。人々の紛失物管理を行っている。
 紛失物というものは平等に人に振り分けられている。人は同じ金額、同じ価値のものを無くしているのである。おっちょこちょいな人だったり、しっかりした人はどうなのだろうと疑問におもうだろうが、みな同じなのである。気づかない紛失物だってたくさんあるのだからね。君が無くしたものはこちらで預かってちゃんとまた還元しているから心配するな。君がなくしてしまったものは誰かを笑顔にしているのだ。そして君をさらに成長させる。
 
 1、りさこ

 彼女はいつもいつも財布を無くす。また彼女は嘆いてた。また財布が無くなっていたからだ。 
 「もういや。」
 子供の頃からである。
 「なんでこんな馬鹿なんだろう。私ばっかり。」
 彼女はそんな事を言っているが、実は彼女はそれ相応の価値を貰っているのだ。
 今日彼女には落ち込んでいる暇はなかった。彼女はこのあと面接なのである。
 「幸先悪いじゃん。もう最悪。」
 走りながら愚痴をいう。
 しかし読者には変な想像をしてもらっては困る。落とし物管理局だって彼女に仕事を与えたい。しかしそれは努力管理局と運命管理局の仕事であって落とし物管理局の仕事ではない。できないことはないのだが、後から上がうるさいからそんな事はしないのだ。
 「間に合った。」
 彼女は面接会場についてすぐ受付に向かった。
あぁ、きれいな女性だな。やっぱりこんな人が受付するんだ。だって美人だもんなぁ。
「すみません。どうされましたか。」
その美人受付に話しかけられ、りさこははっとした。彼女が財布を無くすのはこういうところが原因である。
「あの、面接を、しにきました。」
 りさこは面接会場に案内され、スーツで身をまとった男性や女性(りさこのライバルだろう)が待っている部屋へと連れて行かれた。
 面接は集団で行われ、元々社交的ではないりさこの劣等感をさらに助長させる結果となった。肩を落として歩いていると、さらに嫌な事を思い出してしまった。財布がない。帰りの電車代がない。いよいよ厄日である。歩いて帰るしかない。ふと遠回りして公園に行きたくなった。公園を歩いているとベンチで泣いている男性がいた。
 「大丈夫ですか。」
 りさこは驚いた。何故話しかけたのだろう。自分も悲しいからかな。いつもなら距離をとって歩くところだ。
 「私も泣きたいですよ。財布無くなるし、面接ぼろぼろだったし。」
 男性は顔をあげた。案の定、顔は涙でぐしゃぐしゃである。
 「隣いいですか。もう今日は疲れちゃった。」
 男性は少し驚いていたが、すぐにスペースを作った。
 2人は自分にあった最悪な事を言い合った。白熱した。ずっと最悪な事を言い合っていると、なんだか吹っ切れてしまって、2人で笑い合った。りさこは照れながら「なんか、面白いですね。」と言った。
 男性は黙って涙を拭い、りさこに二つ持っていた缶ジュースの一つを差し出した。

 財布と缶ジュースじゃ価値が違うという疑問はあると思うが、価値とはお金だけじゃないのである。あるときは価値はお金に変わり、あるときは価値は人の幸せに変わる。それだけじゃ足りないって人は多いかもしれないが。


作品名:落とし物管理局 作家名:荒岸来歩