花は咲いたか
人生で一世一代の隠し事を守るには、小芝の協力とあの時一緒にいた安富才助や立川主税が固く口を閉ざしてくれることだった。そして見事にそれを守り通したのであった。
島田は墓標の前でしきりと何かを呟いている。土方と会話でもしているのだろう。
その姿を少し離れて見ていたうめ花が、振り返る。
「おかえり」
と言って眩しそうに見上げる。
そして墓標の前にいる島田を呼んだ。
18年の歳月がその瞬間に消えた。
「副長・・・」
うめ花の隣に、あんなに会いたいと思っていた土方歳三がいた。
「やっぱり似ていますか?」
若者は照れてこめかみあたりを指でかく。
「隼人、新選組の監察を務めた島田さんよ」
そのとたん、島田は大声で泣き出した。今まで自分の心をせき止めてきた何かがはずれたのだろうか。
「副長―っ会いたかったです!ずっと副長を探していましたっ!わーん」
泣きじゃくる島田の声に、白い梅の花びらが一枚するりと落ちて大きな肩にのる。
島田はその日、うめ花と隼人に引き止められるまま、一晩を過ごした。
翌朝、京都に帰る島田は、
「あの戦争ですべてが終わったわけではなかったんですね。次に副長に会えるのはきっとあちらの世界です」
山道の上で見送る二人の後ろに、土方が立っているように見えて島田は瞬きをした。
あれから西本願寺の職を辞した島田魁は、京都で静かな余生を送り明治33年まで生きた。
島田の納棺時に、白装束に着替えさせようとしたその時、懐から折りたたんで折り目が破れかけた紙片が転がり落ちた。妻が不思議に思い広げてみると、戒名が書かれていた。
経をあげた西本願寺の僧が、
「これは新選組副長土方歳三の戒名です。島田さんは戦後、肌身離さず持っていていつも経を唱えていました」
あの小高い丘には白い梅の木があって、春一番に咲く。
「花は咲いたか?うめ花・・・」
毎年花がほころびはじめる頃、風にのってかすかにその声がきこえるような気が、うめ花はするのだった。
最終章 完
あとがき
この作品をいつも読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。
土方歳三が好きで長年ノートに綴っていた記録や感想を、自分の思いと共に小説という文章にしました。
第一、二章あたりのなんと拙い文章でしょうか・・・。
一応、物語は完結しましたが、もう一つのENDも用意しています。これはいつも読んでくださっている読者さんから是非にとお願いされて書きました。この最終章の余韻が冷めたころに投稿してみたいと思っています。
最終章まで読んでいただき本当にありがとうございました。
途中で悩んだり挫折しそうな私をいつも励ましてくださったおかげで、こうして完結することができました。
私の土方歳三への思いは、書き尽くしたとは思っていません。
これからも応援よろしくお願いします。
伽羅