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アキちゃんまとめ

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メランコリーキッチン


メランコリーキッチン

一日ぶりに帰ったはずの自宅で窓を開ける。空気を通す必要が今すぐに必要だったのかは分からない。けれども今の自分には、するべきことだった。そうでなければこの鬱屈した空気が自分を押しつぶしてしまいそうだったからだ。息子二人は、今日こそ迎えに行ってやらなければ。
昨日の夜は自分以上に青ざめた友人たちが、息子たちの面倒を見るとかって出てくれた。自分はそれに一言、頼むと呟いて赤いランプの下に舞い戻った。何がいけなかった。何をどこで間違えた。何度も自分の中で問いかけても答えは出ない。緊急手術を担当した初老の医師の、消毒液の臭いが鼻の奥に残る。
スン、と鼻を動かしても香ってくるのはいつもの彼女の蜂蜜のような花のような香りではなく、どこまでも無機質なリノリウムの静寂だった。目の前で事故に遭った、動転する自分を余所に救急車がやってきた、彼女が目を覚まさないままに入院の書類にサインをした。十二時間にも満たない出来事。
入院するための道具を、と看護師に手渡されたリストが手汗で皺になっている。いつもの彼女の居場所であるキッチンに目をやっても、そこには誰にもいない。開け放したリビングの窓から風が入り込むのにはっとして、すぐに閉めた。ダメだ、と思った。この部屋に残った彼女の瞳が、笑顔が、存在が。
掻き消されてしまう。飛ばされてしまう。震える足を叱咤して立ち上がる。昨日から一睡もしていない頭はどうしたってネガティブな思考を振り払えない。ならば少しでも彼女の隣に居たかった。それから息子たちを迎えに行って、彼女の居ないキッチンで夕飯を作って、食べさせなければ。
彼女が帰ってきたときに、悲しそうな顔をさせてはならない。それだけを考えて、いつの間にか座り込んでいたソファから立ち上がる。彼女の作る塩気の足りないポテトサラダも、しょっぱすぎるパスタも、あまじょっぱいアップルパイも。すぐに食べられる日が戻ってくると信じて。


事故にあったアキちゃんと受け止めきれない荒北さん
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ