アキちゃんまとめ
三千世界の刀を屠り 主と添い寝がしてみたい
「貴方様は選ばれたのです!おぉなんという誉れ!おめでとうございます!」
まるでぬいぐるみのような姿の狐がそう叫んでいる。アキは目の前でひょんと飛び跳ねるその姿が上手く受け入れられず、上半身を起こしたままの姿で動けないままだ。
「審神者(さにわ)殿?」
「……それ、私のコト…?」
「えぇ、そうでございます!貴方様は歴史を改変しようとする輩から、未来を守るために選ばれた人間。今や過去に飛ぶことは科学の進歩にて造作もないこと。しかしてそれら過去の時代に手を加えることは罪とされております。そして貴方様は過去の時代に遡り、その歴史改変者たちの暴虐を阻止すること、それこそが貴方様に与えられた使命でございます」
はっとして自分の恰好を見下ろしてみるが、いつもの制服でも、私服でもない。巫女装束のような奇異なものに変わっている。着替えた覚えも無ければ着替えさせられた覚えもない。アキはぶるりと身の内からくる嫌な予感に身体を震わせた。
「私、そんなこと知らない……」
「これから知れば良いのです!なに、難しいことなどございません!貴方様はこれから歴史改変者のいる時代へと飛び、付喪神の力を使ってそれらを退ければ良いのです!」
「つくもがみ……?」
「そう、日本古来の刀に宿る付喪神、彼らを私たちは『刀剣男子』と呼びますが、貴方様にはそれらを使役していただきます」
そんな方法は聞いたことも無い。それよりも歴史が改変されるとはどういうことか?
アキの居る世界にはそんな、タイムマシンが出来たというニュースは流れていない。にわかにはとても信じ難い言葉を羅列され、アキは混乱の極みにあった。しかしこの喋るぬいぐるみが、盛大なドッキリであったならば、今ここが、タイムスリップしたかのような日本古来の城内などではないだろう。畳のくすんだ青さは些か使い込まれている様が見て取れる。
「そんなの、私、できない……」
喉をひりつかせ、微かな声を出して拳を握る。
しかしアキの言葉を理解できない、と全身で表明しながら狐は続ける。
「出来なくとも、やっていただかなければなりませぬ。幸いにして貴方様は処女であられますし、自身よりもよほど大切な方がいらっしゃると」
「え?」
ふと、アキの脳裏に未来の夫の姿が過ぎる。先日、ようやくプロポーズしてくれた荒北の不器用な笑み。
「えぇ、なに、ご協力頂けなければそれまでということですが、なにせ今までのお話は全て現政府…二千二百五年のものではございますが、そちらの規則に則りまして、身柄を拘束させていただくこととなっております」
ころころと明るい様子で笑いを交えながら言う狐の言葉に、アキの顔色はどんどんと白くなっていく。更に言うなれば、この狐はアキ自身の心身を脅しているのではない。身近な人間に危害が及ぶことを示唆しているのだ。
「さ、ご覚悟を」
アキはそこでようやく理解する。これは自分の常識を軽く飛び越えたことであること。そして、先の見えない何かに巻き込まれ、引きずり込まれたということを。
※とうらぶのハニワになったアキちゃん(2015/04/21)