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じゅくこー!

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白崎由紀と烏屋紅郎



白崎由紀と烏屋紅郎の会話


「それでは、お疲れ様でした、失礼します」
「あ、白崎さん、ちょい待ち!」
己を呼び止める雇用主の声に、今まさに帰ろうとしていた白崎由紀は、素直に一度持ち上げた鞄を置いた。
「はい?なんでしょう?」
「白崎さん、明日、来るよね?」
塾長専用のデスクの前まで行けば、至極当たり前のことを確認される。
「ええ、明日は一コマ目から来ますが…」
そう小首を傾げながら返すと、烏屋は、いやぁ、などと言いながらわざとらしい上目遣いで由紀を見上げた。
三十後半に差し掛かった男のする仕草ではないな、とちらりと頭を過ぎったがもちろん顔には出さない。
「どうしたんですか?」
「ほら、毎年この時期にはさ、来るじゃない?入塾希望者」
「ああ、定期考査明けですね」
「そ、だから今日も一人、入塾テストと面談してたんだ。明日お試し授業に来る」
それで今日は赤浦が何やら小難しい顔で採点業務に取り組んでいたのか、と思い出すと同時に、わざわざ呼び出された理由に合点がいき、由紀は思わず溜息をついた。
「また私ですか……」
「ごめん!明日のお試し授業の担当、お願い!」
がば、とものすごい勢いで手を合わせて拝まれても、出てくるのは溜息ばかり。
「私じゃなくても、良いじゃないですか」
お試し授業の印象が、入塾決意の決定打になること位は由紀とて承知している。
なるべくなら、そんな重責はバイトの身で負いたくないのが本音だ。
「経験で言うなら、軍所さんが最適では?」
「いやそれが、明日の子は、頑張って勉強したのに赤点スレスレの成績で親も本人も相当に落ち込んじゃってる中一の女の子な訳よ」
「はあ」
「そんな子が最初に会うのが、あの『いかにも教員ですが何か?』みたいなオーラ満載の軍所じゃさ、完全にビビっちゃうでしょ?」
「……」
「かといって赤浦や桜庭さんだとさ、是が非でも成績を伸ばしたい保護者さん的には不安が残るわけ」
そうテキパキと説明されてしまえばその通り。
勉強にプレッシャーを感じている子に、初対面で軍所は更なるプレッシャーだろう。
前後左右どこから見ても大学生オーラ満載の赤浦やももかは、保護者の目には頼りなく映るかもしれない。

「明日必要なのは、安心できる落ち着きとやさしさ。適材適所だと思って、ね?」

そう言われてしまえばもはや反論のしようなどあるわけがない。
「……わかりました。頑張ります」

――そういえば一瞬たりとも名前の出なかった根津を思えば。





作品名:じゅくこー! 作家名:雪崩