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いちご

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硝子越しに 独書室ことボクの部屋のリビングであり仕事場に陽が射し込む。
暖かい。
いつもならば 眩しさにカーテンを半ば締めておくのだけれど、キミを想うのに青い空を眺めていたい。真っ白な雲がひとつ。今にもそれからキミが降りてくるような気がする。
いつもと変わらぬ場所で いつもキミが居る場所にキミがくることを待っているボクが居る。

昨日の夜のことだ。キミから珍しくメールが届いた。
いや、メールが届いたことが珍しいのではない。文章が書かれていたからだ。
いつものように謎解きをするべくボクはメールを開いた。『にゃん』と書いてある。いつも通りだと安堵する。しかし その文字に続く文字が画面に現れた。ボクは、どうしたのだろうかとスクロールさせ読み始めた。

『午前に来る予定にしていたけれど 父親の都合に合わせなくてはならなくなり 予定を変更。ボクの部屋に来るのは 午後になるか 明日になるかもしれない』 
文面を簡略すれば、そんな内容だ。キミが父親の秘書となる為の勉強していることも その父親の知人に会うことも これからのキミの為に繋がる。そして、ボクとの交際も続けられるのだ。仕方がない――そんな言葉を使ってはいけないだろうが ボクも頑張らなくてはいけないんだな。我慢もしどころなのか……。
(早く おいでぇ。これが本音)

そして、朝からキミが来るのを待ちながら ボクは原稿用紙にお気に入りの万年筆を走らせた。ただ待つばかりは淋しいところだけれど ちょうど急ぎの原稿の依頼もあった。
仕上がるまでにキミは来るだろうか。青い空は、陽が翳ってしまうだろうか。
そんなことを頭の片隅に置いたままで 書いていたのも束の間。そのことなど いつしかどこかに押しやられていた。

作品名:いちご 作家名:甜茶