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魔九志夢(まくしむ)のアド・ミス物語

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「楼恋巣(ろうれんす)。人は信じないだろう、だけどあるんだよ、摩訶不思議な世界って」
 夏休みに帰郷した私に、祖父の妖風魔九志夢(ようふうまくしむ)が優しい眼差しで、こう切り出しました。それから私の手を握り締め、「お前に話しておきたいんだ。幼稚園からずっと一緒だったヤンチャ坊主の安渡玲(あんどれ)と剣斗(けんと)、おしゃまな織美亜(おりびあ)と伽沙凛(きゃさりん)、それに麻里鈴(まりりん)、彼らと体験してきた世界を」と。
 私は祖父からの語り掛けに別段興味を示さず、「ふうん」と軽く返しました。祖父はその他人事のような応答にがっかりしたのでしょう、老いた瞼を一度閉じ、それから穏やかな口調で話しました。

「お前は物書き志望なんだろ、だからいつの日か、私のアドベンチャー エンド ミステリー物語を書いて欲しいのだけどな」と。
 私はそんな祖父がどことなくいじらしくて、笑顔を作り、「おじいちゃん、きっと書くから」と返しました。それからのことです、祖父は堰を切ったかのように、幼い時から体験してきた実に変ちくりんな物語を語ってくれたのです。

 あれから40年の歳月が流れました。
 その後、私は卒業し、作家生活に自信が持てず、サラリーマンになりました。物書きになる夢は封印し、多忙の中で白駒隙を過ぐが如く年を重ねてしまいました。そして還暦を迎え、時間の余裕もできました。
 当然私を可愛がってくれた祖父はもうこの世にはいません。それでも一念発起、祖父との男の約束を果たそうと。つまり『魔九志夢のアド・ミス物語』を書こうと思い立ったわけです。

 その第1話は――魔九志夢が小学1年生、そこまで時を遡ります。
 さっ、始まり、始まり!