ブルーダイヤモンド
秋草涼香は36歳にして初めての個展を開く事が出来た。日展の特選になり、銀座の筆とナイフと言う画廊が企画してくれたのである。一応芸大を卒業したが、看護師の専門学校に行き、看護師をしながら絵を描いていた。絵で生活出来ない事は先輩から聞かされていたので、自分でも堅実な生き方だと思っている。
特選に選ばれた作品は油彩で50本ほどの油絵用のさまざまな筆を床にばらまきそれを描いたものであった。図案化されたものであるようにも見える抽象的な感じの作品である。
「おめでとう」
医師の多村由が記帳し終えて挨拶をした。祝儀袋も受け付けに出した。生花も一対で届いていた。多村が好意を寄せている事は半年ほど前から感じていた。しかし涼香は食事の誘いですら断り続けていた。