秋の名残り
史緒音は目を開けた。光さす薔薇の庭だった。花びらが辺り一面零れた地面にガーデニング姿のままの自分が横たわっており、その身体に覆いかぶさるようにしゃがみ込んだ夫が身も世もなく妻の名を叫んでいる。地に這い蹲り鬣を振り乱す獣のような慟哭だった。遥か昔から知っている、懐かしい声だった。
なあんだ、私はひとりぼっちじゃなかったんだ。
彼女は微笑んだ。
ごめんね統也、私は貴方に、最後まで好きだと言えなかった気がするよ。貴方は私に何度も言ってくれたのに、ごめん。
最早指ひとつ動かすことは叶わなかったが、史緒音は最後の意識の中で繰り返し、彼女の名を呼ぶ声にそう応えていた。
秋の名残り 了