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ブラックウルフ
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novelistID. 51325
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対馬で別れて

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「それが分からないから困っているんです。お医者さんは、脳溢血だとかもやもや病が原因と考えられるっていうけど、他害?つまり他人から怪我させられた可能性もあるみたいに言っておられて。。。」
「ええ、他人から怪我させられたって?」
 私はちょっと周りを見てから、マスターとの話し続けた。
「たぶん、裕太には脳溢血で倒れたことがあったから、事故とか人から殴られたことが原因だとは思わないけど。お酒が引き金になったかな?それからなにか緊張していたんで脳の血管が縮んで切れたのかなあって」
 
 【8月16日午前9時10分。民宿パゲルマ】
民宿に泊まり始めてから10日が過ぎた。さすがに費用もかかり始めたので、今日で引き払うことにした。今日はいよいよおばあちゃんに会いに行かないといけない。
 おばあちゃんは、私の顔を見たら何というだろう。なにしろ波もかもほったらかしてでてきたのも同然だった。それに、私はおばあちゃんに育ててもらった。私の両親がいなくなったことから、おばあちゃんに苦労をかけた。私が小学生の頃、大きくなったらおばあちゃんに親孝行しよう、楽をさせてあげようと思っていた。小学校4年生の時に、授業で「いつもありがとう、お母さんへ」というテーマで作文を書くように言われた。私にはお母さんがいない。だから、当然おばあちゃんに向けて「いつもありがとう、おばあちゃん」と表題にした。
 ”おばあちゃんへ、いつもご飯を作ってくれて、私の体操服もスカートも何もかも洗濯してくれて、ときどきお小遣いもくれて、年取っているのにパートもしてくれて、とってもとってもありがとう。
  おばあちゃんは、とっても元気でおしゃべりが大好きで、近所の人や近くに住んでいる親戚のおばちゃんと大きな声でよくおしゃべりしている。ときどき私のことを自慢しているのはちょっと恥ずかしい。それにそんなに私もことばかり考えずに、自分のことも考えて欲しい。趣味とかもして欲しい。でも、私とおばあちゃんが食べ物を買うのに年金だけじゃ足りないから、働かないといけないよね。ごめんね、ごめんね、おばあちゃん。
 おばあちゃん、ときどき肩もみしてあげてるけど、疲れたときはいつでも言ってね、私はなんでも手伝うから。
  おばあちゃん、元気で長生きしてください。”
 こんなことを書いたけど、私がこんな思いでいることは気づいていなかったと思う。なにしろ私は、学校でみんなからのけ者にされないために、男の子たちの真ん中にいて、まるでガキ大将みたいに遊び回っていた。だから、おばあちゃんに対して、こんなふうに思いやっていることなんかぜったいおばあちゃんは気づいていなかったはずだ。
 
 私は民宿を引き払ったが、荷物は「今日中には取りに来ますから」と言って預かってもらった。私はゆっくり歩いておばあちゃん方に向かった。夏の暑さが胸にしみた。対馬はお盆過ぎは昼でも涼しい風が吹いたりするんだけど、この日のお昼頃の暑さは厳しかった。「ただいま」と私は自分を元気を出すようにと、大きな声で言った。
 おばあちゃんは家の中にいなかったので、裏庭に行ってみたら、そこにいて下を向いて腰屈めて畑仕事をしていた。おばあちゃんは、私が来ていることは分かっているはずなのに、顔も上げずに黙っていた。
「おばあちゃん、ごめんね、何も言わずに出て行って」
 まだ黙っている。怒っているんだ。
「だからさあ、彼と喧嘩しちゃって」
 やっと私の顔を見た。おばあちゃんの顔は日に焼けていた。
「喧嘩ったって、結婚式場も申し込んでいるんだろ、そんな急に居なくなって人様に迷惑かけるだろう」
「そうだけど、でもまだ間に合うから、大丈夫だから」
「あんた、仕事はどうしているんだい」
「ああ、仕事はちょっと止めているけど、ちゃんとするから」
 私は、2つの言いにくいことのどちらを先に話そうかと迷っていた。少しでも言いやすい方を選んだ。それは私には責任のないこと。それに妊娠はまだ止めてしまうことだって出来るんだから、可能性は小さいけど。
「それよりもおばあちゃん、彼氏が倒れちゃったんだ」
 野良仕事をしているおばあちゃんの手が止まった。私の目を見たかと思うと、目をそらしてまた土をいじり始めた。
「どうするんだい?」
「うん」
「ユリ、あんた、温かい普通の家庭を持たせるっていっていたじゃないか」
 私はカチンときた。私自身でもよく分かっていることだ。分かりきっていることを言われると、カチンと来る。
「だから、おばあちゃん、ちゃんとするから。それよりも彼氏が倒れたんだけど、どうしようか?」
 また、おばあちゃんの手が止まった。
「なるようにしかならないのじゃないかねえ、人の命は」
 私は、意外に思った。おばあちゃんは、裕太を余り気に入っていなかった。でも倒れたと聞けば、驚くだろうと心配するだろうと思っていたからだ。
「とりあえず、私ここに戻ってきてもいいかな?」
 一瞬笑ったようだった。
「ああ、それはいいよ、あんたの家じゃないか。ちょうどネギも抜いたから、そうめんを作ってそうめんに使おうかね」
「ありがとう、おばあちゃん」
作品名:対馬で別れて 作家名:ブラックウルフ