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最後の孤島 第2話 『世界一の国から』

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【倉野 比奈】(2)



 このジョーという名前の白人のアメリカ人は、ペラペラと本当によく喋る。ただ、どちらかといえば、ビジネストークのような話し方だ。体格も態度もスマートな感じだったが、見合うように演じているように見える。

 お互いの自己紹介に始まり、自分がニューヨークのウォール街でどんな仕事をしているかとかの話だ。ぶっちゃけ、ほとんどが自慢話……。
 しかも、ときどきだが、日本やイギリスへの文句を挟んでくる。たとえば、「日本の市場は閉鎖的」だの「イギリス料理はまずいだの」とかだ……。議論に慣れているらしいダニエルはすぐに反論したが、事なかれ主義の日本人である私は何も反論できなかった……。
 ただ、このアメリカ人らしい自分勝手なスピーチは、長老が住んでいる木を目にした途端、ストップしてくれた。

 ジョーは、超高層ビルが乱立するニューヨークで働いているクセに高所恐怖症らしく、高い木の上にある長老の家に着くまで、何度も悲鳴をあげる……。私は、心の中で「ざまあみろ」と笑ってやる。


「けっこうなお住まいですね! 見晴らしも抜群だ!」
ジョーは、長老に会うとすぐに、恨めし気にそう言った……。よほど応えたようだ。「こんなチキンで、よく金融マンをやっているな」とダニエルが耳打ちしてきたので、私は思わず吹き出しそうになる。
「ありがとう。しかし、お国では、もっといい場所に住んでいるのでは?」
「おお、わかりますか!」
長老がそう言うと、ジョーは大袈裟に驚いてみせた。まだ、ジョーのことを、「ニューヨークのウォール街で荒稼ぎしている金融マンで、傲慢なアメリカ人です」と紹介していないからだ。
「なに、ただの勘だよ勘!」
長老は笑いながら言う。

 挨拶はもういいといった様子のジョーは、船から持ってきたビジネスカバンの中から、最新式のタブレット端末を取り出した。私は無邪気にも、スマホだけじゃなくてタブレットも欲しいなと思った。
「さっそくですが、長老様に御紹介したい金融商品がございまして!」
なんとジョーは、意気揚々と金融商品のセールスを始めたではないか……。彼は、自分が今陥っている状況がわかっているのだろうか。
 おそらく、彼はすぐにこの島から出られると思っているのだろう。もちろん、私もそう思っていたが、まさか目先の利益を一番に気にするようなことはしなかった。おそらく彼は、身の芯まで金欲に憑りつかれているのだろう……。私は彼が可哀想に思えてきた。
「この軍需企業の銘柄はですね! 世界中の軍隊が導入予定の、最新式の無人兵器のメーカーでして、今後も安定した成長が見込める企業です!」
水を得た魚のように、セールストークを続けるジョー。それに対して長老は、黙って聞いてやっている。ただ、ジョーのビジネスには興味無さげで、彼自身に興味を抱いているように見えた。どうやら、長老は話し上手だけでなく、聞き上手でもあるようだ。