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最後の孤島 第2話 『世界一の国から』

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【ジョー】(1)



 わたしの名前はジョーという。わたしは今、太平洋の大海原に浮かぶクルーザーにいる。仕事中ではなく休暇中だ。

 久しぶりの長い休暇中なのだが、妙に落ち着かない。自分で言うのもあれだが、わたしはやり手の金融マンで、普段はニューヨークのウォール街でバリバリ働いている。今回の旅行は、上司の勧めで長い休暇を取ったわけだが、体が仕事を欲しているような感覚に陥っている。わたしは仕事人間らしい。
 今すぐ旅行を切り上げて、オフィスに早く戻りたいと何度も思った。そこには、わたしの存在を必要とする有意義な仕事が待っている。はっきり言って、この休暇に、わたしに取って有意義なものは何も無い!
 要するに、貴重な時間を無駄にしているというわけだ! こんなところでノンビリしているより、オフィスで先物価格の推移を見ているほうが、はるかに有益だ!

   プルルッ!!! プルルッ!!!

 おっと、世界を股にかけるビジネスマン御用達のスマートフォンが鳴りだしたぞ? かけてきたのは誰だ?
 ……上司か、仕事の話だといいんだが。
「わたしです」
普段と同じ落ち着いた口調で、電話に出る。
『やあ、ジョー! 休暇を楽しんでいるかね?、すまないが、仕事の話だ』
幸いなことに、仕事の話であった! アドレナリンが急上昇していくのを感じる!
『実は今、食糧の先物価格が軒並み急上昇していて、ある大口の顧客からそのことに関して相談を受けていてね』
「なるほど。元から悪いですが、世界情勢が急激に悪化しているからでしょうね」

 結局のところ、株式市場というのは、人々の感情で動いているものなのだ。人々の間にある恐怖感や安心感などの関係が、株価に影響を与えるのは自然なことだ。
 今は、緊迫する世界情勢による恐怖感から買い溜め騒動が起きており、小麦などの原材料の価格が急上昇している。普通の人々からすれば災難だが、我々金融マンからすれば稼ぎ時だ。

「それで、どんな相談事だったのですか?」
『1種類に絞って勝負をするのだが、どの食糧品が一番儲かるのだろうかという御相談だ。君なら、どの種類を薦めるかね?』
そのような質問について考えるのは好きだ。わたしの考え次第で、億単位の金が動くことになる。
 わたしは少し考えた後、お客様に合った先物が何であるのかを上司に伝えた。たぶん嘘だろうが、上司は既にわたしのアドバイスを予想できていたらしい。