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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第三章

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第三章




「はああああああああああっ!!」

ザシュ、と剣が獣の肉を切り裂く。
獣が一体、地に這った。

「うふふっ、鞭と獣だなんて相性最高じゃない…」

ヒュン、と鞭が空を切る音がする。
獣がまた一体、きりもみしながら大きく飛ばされた。


二人は、数分で襲いかかってきた何体かの獣を撃退した。
見計らってセイファとリーが二人に近づく。

「…手際、かなり良くなってますね、ミクリィさん…」

「でしょ?だてにリーの剣教わってないよ。それに
 ミルファルもいるんだから」

得意げにミクリィは胸を張った。

リーは驚いていた。ミクリィの剣技が以前と比べて
格段に上達していたからである。

教えたリー自身が驚くほどにミクリィは飲み込みが早く
そして努力した。そのおかげか以前の彼女より
何倍も強くなっている。

「あら、私にはなにかないの?」

少し不満げにミルファルがリーに問う。

「……正直、鞭でここまで威力のある攻撃を見たことが
 ありませんでした…」

「ふふっ。まあ、それでもリーには遠く及ばないわ」

言うが、ミルファルはどことなく嬉しそうだ。

実際、リーは本当に鞭をここまで使える者を
初めて見た。
本当に鞭での攻撃かと思うくらいに、深く鋭く
相手を撃っていた。威力は弓以上だった。

「え、えっと、今治療しますね……」

セイファが薬箱から傷薬を取り出し、二人を治療し始めた。
といっても二人はかすり傷だ。
早々に治療は済んだ。

だが、セイファの治療の手際も、明らかに格段に
上達していた。

リーは三人の力の評価を、大きく認識しなおした。



「…しっかし、噂通り、ここいらじゃ獣とか普通に
 襲いかかってくるんだなー」

剣を鞘にしまったミクリィが言った。

「この辺りでは日常茶飯事なそうよ。私の領のところにも
 たびたび出てたから、私も配下も訓練してたのよ」

鞭をてのひらに収めながらミルファルが言う。

「…な、なんか、いやな感じがします……」

そして、少し震えながらセイファが言った。

「…獣やモンスターが出てくるのは、任務上いつもの
 ことでしたが…」

言ってからリーは考えた。
この世界に来てから今までは、普通に町や村などの
外で獣に襲われたことはなかった。

「世界の中でも、獣やモンスターなどが出る場所と
 出ない場所があるのは、出る場所に何か危険な気配が
 あるのではないのでしょうか?」

チップからイルが言った。
同じくらいに考えをまとめたリーも、それに同意見であった。

思って、はっとした。

(……なんで、こんなにぞろぞろ歩いて任務を遂行
 しなければならないんでしょう……)

リーが所属している組織「特殊空間任務対策班」は
世界の調律を保つ組織である。
そのトップにいる自分がなぜ、少女ら三人と一緒に
数々の世界の危機に立ち向かわないといけないのか。

リー個人の手際なら、そろそろ事件の大本に
接触している頃合いだった。

ミクリィは剣の指南をしているうちに懐かれて
セイファからはなぜか信用されて
ミルファルからはしょっちゅうくっつかれそうになって。

そのたびにリーは頭を抱えた。
どう対処していいか分からない時が多い。

それが害意のある者なら簡単だった。
さっさと距離を置くか、倒せばいい。

この三人はそうではないので、そういった対処は出来ない。
事が起こるたびに、自分が自分じゃなくなるように
落ち着かなくなる。
それがリーには怖かった。


立ち向かうのはむしろこの三人に対してではないか。
リーは思った。



一行は、ミルファルが治めている領を超えて
次の城下町へと向かっていた。

目指すは、謎の薬の出所と思われる大商人の屋敷である。
だが、行程さなかで何回も獣の群れと遭遇した。

一行はミルファルという新たな戦力も加わって
これをはねのけたが、それでも一行の速度は確実に落ちていた。

ようやく城下町に着いた時には、ミルファルの屋敷を
出た時から数日が経過していた。

「…あーやっと町だー!町のご飯食べる―!お風呂入る―!
 ベッドで眠れるー!」

ミクリィが喜んだ。
リーとしては、すぐにでも屋敷に乗り込みたかったが
まだこの城下町での情報もろくに集めておらず
そして、確かにここ数日の野宿で、一旦体制を
立て直しておきたいところだった。

だが、リーは少し不思議に思った。
ミクリィの声と顔は喜んでいるが、少しだけ
不安そうな色が垣間見えたのである。




「はああぁー……。久しぶりのちゃんとしたお風呂だぁー……」

ミクリィが芯からリラックスしたような声を出す。

「い、今までは即席でしたからね……」

隣に並んだセイファが言う。

野宿の時は、携帯している水か、湖や池の水を加熱して
それで肌を流していた。

「あら?水じゃなかっただけマシだと思うけど」

そして、湯船の外で、肌に泡を付けて身体を洗っていた
ミルファルが言った。

「それに、水でも水浴びが出来るだけマシよ。
 もっと過酷な状況だってあるんだから」

「まあ、そーだけど」

ミクリィはうつむいて口までお湯につける。
多少うつむいた後、顔を上げて口を開いた。

「それでさ、セイファはリーのこと好きなの?」

「ふ、ふぇえええっ!?」

がん!と大きい音を立ててミルファルが前の壁に
頭をぶつけた。

「…い、いきなり直球ね…。そうくるとは思ってなかったわ…」

結構痛かったらしく、手で頭を押さえている。
セイファは顔を真っ赤にしてうつむいていた。

「あたしは好きだよ、リーのこと。なんだかんだ言っても……
 いや、言ってないか。でも、なんとなくあたし達のことを
 ちゃんと心配してくれてる感じがしてさ」

ミクリィは臆さず言った。ミクリィにとっては当たり前の
ことのようだ。

「つまり「love」じゃなくって「like」ってことかしら?」

ミルファルがミクリィに聞いた。

「うーん……どうだろ。……憧れだけかもしれないけど
 それに、よく分かんないけど……多分「love」に近い
 「like」じゃないかな、今は」

ミクリィは答えた。

「そ、そ、その……わ、わた私は……私は……っ」

セイファは返答に詰まる。

「そうね、なら私もそれに近いのかしら、今は」

「み、ミルファルさん!?」

そしてセイファが答える前に、ミルファルも自分の気持ちを
答えてしまった。

「あ、あうあうあう……っ」

「さあ、じゃあ後はセイファだけだよ……!ほらほらー
 言ってしまえ言ってしまえー!」

「ち、ちょっとミクリィちゃんそこは……っ!――っ!?」

セイファがミクリィの手によって身悶えた。

「こらこら、あんまりからかわないの」

そんな二人をミルファルがたしなめる。

「はーい、ごめんね、セイファ」

「い、いえ……」

セイファはぼーっとしながら、数秒、赤い顔をしてミクリィを
見つめていた。
やがて少し正気に戻ってから、セイファも言った。

「そ、そうですね……。わ、私も今はお二人と……
 同じだと思います……」

「……そっか」

ちゃぽんと、お湯が跳ねる音がした。
作品名:AYND-R-第三章 作家名:天月 ちひろ