AYND-R-第二章
嫌と思えこそすれ、引き込まれることなどないのだ。
「というか、本当に何しにきたの?」
女領主は改めて三人に聞いた。
一瞬、三人は返答に詰まったが、
「……最近、流れの行商人が持っているという
謎の薬について調べています」
と、仕方なく正直にリーは言った。
回りくどい言い方だと説明しにくい上に
長くなると「対策班」の事にも、話が関わる可能性が
あるからだ。
ここで表情や顔色、態度が変わるようであれば
追及の手を、少々強引なものに変えてもいいと思った
リーだが、
「薬?」
女領主は何も知らないようで、ぽかんとした。
「ええ、最近になって流れているそうで…。
ここには行商人も多く出入りするので、何か手がかりが
ないかと」
「って、まさかたったそれだけの情報のために、わざわざ
ここまで来たの?」
女領主は呆れたように言った。
「あなたたちは見ない顔だから、知らないと思うけど
私のこの館って警備厳重で有名なのよ、ここらへんでは。
ここの領を預かる身としてはね」
てのひらを上にして、両手を肩くらいの位置に上げる
ジェスチャーをしながら、周りを見て、
「……私、もしかしたら見つけなかった方が良かったかも
しれないわね」
とつぶやいた。
女領主、名前を「ミルファル・ララメイ」と言い
その後は素直にリー達の質問に応じた。
なぜそんなにぺらぺらと喋ってくれるんだと
ミクリィがミルファルに聞くと、
「私にとって大した情報じゃないのと、あなたに
負けたのと、この男…?を気に入ったからよ」
と言った。
ちなみに男かと疑問符をつけられたのは、もちろん
リーである。
ミルファルからの情報によると、この館でそれらしき品を
扱った記録はなかったが、この町より西へ進んだ城下町に
大商人の屋敷があって、その商人の人達がそれらしき
品を売っているのを見た、という者がミルファルの配下に
いたらしい。
ならとりあえずはその町に行ってみませんかと言いながら
セイファはミクリィのかすり傷と、ミルファルの頬の傷を
手当していた。
どうやらセイファは、ミルファルの方も見かねたらしい。
ミルファルは素直にセイファに礼を言った。
「い、いえ……そ、その、勝手にこっちが
入っちゃったんですから……」
とセイファは恐縮して礼を受け取ることではないと
言った。
ちなみにリーが倒した男達は、単に気絶させただけなので
全員無傷である。
「……ねえ」
「は、はい?」
ミルファルが三人に普通に声をかけた。そして
「私も一緒についていくわ」
と言った。
三人は驚いた。
なぜいきなりミルファルが同行すると言うのか。
三人には理由が分からなかった。
「言ったじゃない、この男が気に入ったって。
なら、手に入れるのは無理にしろ、勝手についていくのは
勝手じゃない?」
リーは頭を抱えた。
二人だけでもただでさえ大変なのに、三人に
増えたらどうなるか。
リーは想像したくなかった。
「あたしは歓迎だな。まだミルファルにはリベンジしてない。
いつか勝つまでやるつもりの相手が、近くにいるってのは
いい」
真っ先にミクリィが同意した。
「わ、私も……み、ミルファルさんやミクリィさんのように
強い人が増えてくれると…う、嬉しいです…」
セイファも肯定派である。
「プロテクトサポーターにしますか?」
イルはリーの判断を聞いた。
リーは頭を抱えた。
断れそうにない。
それに断ってもついて来るだろう、この少女は。
「へぇ……複数の世界の危機ねぇ……」
「し、信じてくれますか……?」
「ちなみにあたしはまだ半信半疑だし、っていうかどっちでも
いい、リーが剣を教えてくれるんなら。
つまり目の前のことを片づけていけば、解決するんでしょ?」
「大雑把に言えば、そうです」
「ふふっ、面白そうじゃない。毎日館に閉じこもって
雑務に書類に退屈してたところよ」
「で、でも、領主のお仕事は大丈夫ですか…?」
「ああ平気よ。全部執事の者が心得てるわ。
……安心して、「対策班」のことはちゃんと私だけの
秘密にしてるから。でないと」
リーに記憶を消されるからね、とミルファルはリーを見た。
リーは黙って先頭を歩いている。
結局、ミルファルも仲間に加わった。
プロテクトサポーターになることも承諾してくれた。
ミクリィ以上の使い手が仲間に加わって、それに
二人の事をミルファルに任せる事も出来るようになったの
だが、リーの顔色は優れない。
ミルファルから感じるリーへの視線は
リーにとって、なにか「ぞくっ」とするものがあった。
敵意など、害意のあるものでない。
それだけに、その視線は余計にたちが悪かった。
もうリーは何かをあきらめた。
暗闇の中、「誰か」が「何か」に手をかざしている。
「誰か」はなにかをつぶやいている。
「何か」は「誰か」の呼吸に合わせて鳴動している。
瞬間「何か」は一瞬だけ激しく辺りを照らし
そして膨張した。
そしてまたもとの動きに戻る。
「誰か」は少々驚いたが、それが一瞬のことだと知って
落ち着きを取り戻した。
そして「誰か」は薄く笑った。
作品名:AYND-R-第二章 作家名:天月 ちひろ