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メドレーガールズ

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「集ぅー合!」
 のんたんや真由とじゃれあっていると律っちゃんが叫ぶ、先生がプールにやって来たからだ。顧問の水嶋 香(みずしまかおり)先生はこの中学校の卒業生でもあり、個人メドレーの選手として国体の出場経験がある。だからどの泳法にも詳しい上に指導は当然厳しい。赴任五年目の27歳、三年生の体育を教えており今年のチームには思い入れがあるようで、私達以上に気合いが入っている。

「目指すのは一番のみ、二番以下はない」

が先生のモットーだ。やるからには一番を目指せ、たとえ相手が誰であろうとも――。私達の目標もこの雰囲気の中で決めたものだ。
「みんな、聞いて」
 律っちゃんの声で私達は水から上がり、先生の周りを取り囲んだ。泳ぐにはまだ早い季節で、身体が小刻みに震えていた。
「今回の大会について説明します」
先生はプールサイドの白板に板書しつつ資料を読み上げた。
「競技種目はリレー、自由形、個人メドレー、背泳、バタフライ、平泳ぎの順で、最後にメドレーリレー、種目別は100と200、個人メドレーは200でリレーは400メートル。出場はリレーを除いて一人二種目までね」
 今年も大会のメインイベントであるメドレーリレーは最後の種目だ。
 基本的に水泳は個人競技だけど、リレーだけは部の代表としてチームで泳ぐ。部の結束が勝負を決める、チームとして一番盛り上がる種目だ。浦中では例年トライアルをして選手を決める、去年は真由だけが自由形(フリー)で出場し、あとは先輩が代表となった。
 私が出たい平泳ぎは現在候補者は三人、私以外はどちらも一年生だ。他の三人は問題ないだろうから、メンバー構成を見て今年はオール三年生で優勝を目指すんだ、私はそう思っていた。個人戦に関していえば三年生の中で私だけが「一番」には遠いのは実力から明らかなので、それだけにメドレーリレーには人一倍賭けていた。
「個人戦は予め希望を書いておくこと、メドレーリレーについては来月に選考トライアルします。出場は一人二種目までね。それと……新宅」
「はい」真由が声を出して返事をした。
「違う、真美の方だ」
「はい」続いて返事をしたのは真由の妹の真美ちゃん、今年入部してきた期待の一年生だ。身体はまだ出来上がっていないというけど身長は私と変わらない。姉の真由と同じクラブに属していて、小学生時代に数々の大会で好成績を納めている。将来の浦中のエース候補だ。
「トライアルは平泳ぎ(ブレスト)にも出ること。いい?」
 真美ちゃんは戸惑いながら返事をした。彼女は個人ではメドレーの選手で、得意は背泳だ。なのに先生は平泳ぎを命じた。それは私にとって脅威のライバル出現を意味する。私達三年生四人で誓った「私達での一等賞」は試合前から突然の黄信号を示した――。
「我々が目指すのは、市田」
「一番のみです」
のんたんは条件反射で答えた。先生はこうして私達に勝つことの大切さを刷り込んできた。
「以上、種目別に分かれて練習始め!」
 15人の部員は返事をして、各レーンに分かれて練習を始めた。指揮をとるのは三年生の役目だ。
「よろしくお願いします」
 私のいる6レーンに真美ちゃんが来て、平泳ぎのパートは四人になった。
 今から始まる短いシーズンの本番。私達は最後の夏になる、一瞬だけ煌めくために準備をしてきた。律っちゃん始め四人で何度も確かめあったことだ。
 しかし、私は真美ちゃんの泳ぎを見て楽しいムードは一変し、これからのことが気が気でならなかった――。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔