女神に恋した底辺の男
るのを見た。俺がコンテナを運んでるのに彼女は気づかないで会話してた―やっ
ぱりかぁあんな可愛い娘だもんよ彼氏くらいいるよな…そっか仕事場で彼氏に会
うためにこんな暗い喫煙所に来るんだな…クソ、なんか…クソ!
俺は夜勤長に「すみません…二時間でも身体がキツイんで週一・二にしてもらえ
ませんか?」と聞いた。夜勤長は「仕方ないな…何曜日ならできるんだ?」「月
曜と金曜なら…」彼女のいない曜日…。
「じゃあ月・金で頼むわ」
「すみません」
なんか敗北と切なさと虚しさが同時にきた。
俺は自分に彼女が気があるんじゃないか…なんて思い込んでたとこがあって自分
に嫌気がした。ぶっちゃけて言うと彼女とセックスしてるのを想像してオナニー
した事もあって“なんて気持ち悪い奴なんだ”なんて思っている―。
久しぶりに橋で足を止めた。右に東京タワー、左に観覧車、上に満天の星で下は
運河…俺は運河の流れのようなもので彼女は輝く星で、運河は星空眺めせわしな
く働くだけ…星は自分を輝やかせてくれる星と繋り決して離れずに流されず、永
遠に輝くのである。
「幻想を抱かしてくれてありがとう」
精一杯カッコつけて煙草を運河に投げ捨てた。一粒の恋が闇の流れへと消えてい
った―。
「凄い詩人だね…」
振り返る―。
「あ?」
輝く星…イヤッ彼女―。
「素敵な詩だね…ずっと聴いちゃったよ」
声に出てたのか!
「その詩…わたし好きだな…今度ゆっくり聞かせてくれる?」
俺は頷いた―。
「じゃあアタシは仕事だから…いってきます」
「い、行ってらっしゃい…」
彼女はすれ違い際に俺の手をそっと握って去った。
俺は3分くらい何が起きたのか解らないまま立ち尽くした。
フラフラしながら運河沿いを歩いてアパートについた―。
「え、えぇ!ウソだろ?声なんて出てる訳ねぇし…彼女があの時間にいるわけね
ぇし…俺は病気か!幻覚だよな完全によ」
冷たい水で何回も顔を洗ってみたがリアル過ぎて勘違いしてる。絶対に勘違いだ
と…あんなタイミングに彼女とあの場所で会うはずがない―。
俺は安いウィスキーをロックで飲んで寝た。
次の日―夜勤長に事務所に呼ばれた。
「お前よぉ」
「はい…」
「社員にならねぇか?」
「なんですか意気なり」
「給料も上がるし仕事も楽だし…なんてったって」
「なんすか?なんでニヤけてるんですか」
「知ってんだぞ!菜緒ちゃんの事!昨日よぉ相談されたんだよ。しかも所長から
誰か社員になれそうな奴いないかって言われてるしな…お前しかないじゃんよ。
仕事も慣れてるしよ」
「菜緒ちゃん…?」
「とぼけるな!わたしのサインが届かないんですって言ってたぞ!色男め」
「夜勤の事務所の可愛い娘ですか?」
「そうだよ。男の社員は全員が撃沈されてんだよ…なのにお前が拐っちまうから
よぉ」
「え!えぇ!マジッすか!えぇ!」
「大声だすな!バカ」
「すみません」
「しかし…無表情のお前でも動揺すんだな…まぁ冗談抜きに社員の話を考えてく
れよな」
夜勤長は俺を置いて事務所から出て行った。
しかし、昨日のが夢じゃなかったなんて…一方的に好きなだけだったのに…こん
な展開があるなんて…。
次の週―社員のジャンパーを着て朝礼で挨拶をさせられた。
「ま、松形裕樹です。よ、よろしくお願いします」
彼女が微笑んでいた。俺は頷いた。
:あ、母さん。今度の日曜日に帰るよ。
:なんで?
:なんでって…彼女を連れてくよ。就職の話もあるしさ…。
:どうせすぐに辞めるんでしょ…彼女ともすぐに別れるんじゃないの?
:…とりあえず今度の日曜日に彼女連れて帰るからさ…じゃあね
電話を切ってソファに座った。横には女神…微笑んでる女神が横にいる。
おわり
作品名:女神に恋した底辺の男 作家名:スタイルクエスト