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命の30分間疾走

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「長谷川の気持ちも分からなくはないけどね。いじめられたらいじめかえしたくなるんだよ。でもそれは心が弱いのかもしれない。いつかあいつが心が開けるような人が現れるといいんだろうけどね。」
ガキ大将は驚いた表情で正太のことを見た。
「お前は本当に心が広いな。芳川を助ける時もそうだけど。」
「弱いものいじめを撃退しているお前も同じじゃないのか。」
「いや俺はさ、ただそれは男としての番長として正義だと思ってやってただけなんだ。
でもお前に言われて分かったんだよ。俺はただ番長であることにこだわってただけなんだって。喧嘩に負けちゃいけない、強くなきゃいけない、ってただそう思ってた。でもお前が喧嘩には勝っても負けても正々堂々としてなきゃいけないんだって言っただろ。お前からそれを教わった。それにあの長い線路を自転車で走る度胸・・・俺にはない。俺の負けだよ。」
「でも俺もあんな無茶な度胸試しは二度とするなって親父に言われたよ。」
「やっぱりそうか」
そう言ってお互いに笑いあった。

二人は今回の事件でともに成長したのかもしれない。男気や強さというのは喧嘩の強さでも度胸試しの強さでもないことを。命を大切にすること。そして真の友情を作ることの大切さを。そういうのが真の強さなのかもしれない、と。ガキ大将とはその後も友情が続いた。





  喫茶店で長い話を正太は話し終えた。しばらく沈黙があった。
「どうしたの?」
「いや・・・なんていったらいいか」
清子は言葉に詰まった。
「馬鹿げた話で笑えたでしょ。」
「そんなことない、別に。でも大変だったんだね、そんなことがあったなんて」
「そう大変だったよ。あのとき死んでたら今君に会えてなかったんだもの」
「もう・・・縁起でもないこと言わないでよ」
とくすっと笑った。
「でも・・・・」
「でも・・・・?」
「そういう経験って人間必要なんだと思う。必死に何か人とぶつかったり本音をさらけだしたり。それが正太君の場合はそのガキ大将との決闘だったのかも・・・。なんていうか・・・うまく言えないけど・・・私って都会育ちだからそういう人間関係とかドライな環境で育ったから。人と本音でぶつかりあったりそういう経験したことないかもしれない。だから私は大学でこの町に来ることにしたの。特に意味はないけど小さいときに旅行中に電車でこの町を通りすぎた時に何かを感じたの。だからこの町の大学に通うことにした。田舎町で本当の人間関係を学ぼうと思ったの。都会なんて社会人になればいくらでもいくチャンスがあるんだし。」
「そうだね・・・でもそんな風にいってもらえるとうれしいよ。地元の大半の人はあの事故を馬鹿げてるって笑うから。この田舎町が気に入ってくれたのもうれしいよ。そのおかげで君と出会えたんだし。」
「そうね・・・」といって清子はまた笑った。
「でもその長谷川って人今何してるんだろうね。」
「さあ、分からないな。でもあの事件をきっかけに反省して孤独と向き合っていたようだったよ。今頃大人になって心を開ける友達もたくさんできてるんじゃないかな。いじめられたら仕返しをするんじゃなくて、いじめられた経験をいい方向に持って行けてればきっといい人生を送っているはずだよ。」
「そうね、そうだといいね。」清子も賛同した。


喫茶店を出ると清子を駅まで送った。境町駅だ。昔と違って土砂の断崖絶壁ではなく、ちゃんと傾斜のあるコンクリートで周りは舗装されている。あの事件以来町長が真剣に駅の構造問題について検討したようだった。今では線路に落ちても登れるし線路と絶壁の幅も広がったので事故につながるようなことはなくなった。時代とともに田舎も進歩するものだ。
清子は隣の太田原町で一人暮らしをしている。改札で別れることにした。
「じゃあまた明日ね・・・明日は授業同じのなかったか・・・じゃあ明後日かな。」
「うん明後日ね。」
そう言って二人は別れた。

清子を自転車で送った後に自宅に正太は帰ろうとした。もう季節は春だった。あの頃と同じように。大学を出たら地元に就職するのか東京に出るのかはまだ決めていなかった。でもきっといくつになってもこの田舎町は正太にとっては思い出に残るだろう。そう思いながら家路に向かった。








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作品名:命の30分間疾走 作家名:片田真太