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短編集『ホッとする話』

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 戸が開いたと同時に部屋の仲から光が溢れ出した。決してまぶしくはなく、そして、静かな。時子はその優しい光に誘われるように部屋の中を覗いて見ると、部屋の隅々にろうそくが灯され、それぞれが優しく揺らめく光を放ち、部屋全体に広がっているではないか――。
「私は平民の出で裕福ではありません。私が思い付いた、部屋を満たす方法はこれしかありませんでした」
 目線を下げる喜作。時重は横にいる娘の顔を見ると今までに見たことのない艶やかな眼差しでこの平民の喜作を見ているではないか。
「あなたこそがお父様の条件を充たしております」
 時子は思わず喜作の手を取ると、喜作は驚いた様子で頭を上げた。
「それは、どういうことかね」
時重が質問すると時子は目を輝かせながら答えた。
「この温かい光は、私の心を満たしてくれます。私の欲しいものは宝石でもおいしいものでもなく『温かい気持ち』なのです。ありがとう……」
 時子は喜作の手を取ると、初めて時子が笑った。
「時子がそう言うのなら、それでよかろう」
 そして時重は喜作に娘をやることに決めた。

 
 『この部屋に満たされたもの』  おわり