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短編集『ホッとする話』

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 それから三日の謹慎を言い渡された。
「こんな会社じゃ、自分はいずれ捨てられる」
と考えるようになったのは自然な成り行きだった。とにかく急な休みですることのない私は、この一部始終を知らない主任に報告すべくおもむろに携帯電話の番号を押した。
「もしもし」
「おう、どないしたんや、連絡もせんと」
いつものように元気な声で答える主任。それだけに心が少し痛い。
「実は……」
ことのあらましを説明した。主任は合いの手も入れながらただ聴いてくれた。
「なーんや、そんなことやったんか」主任の笑う声が聞こえた。そして今まで誰も自分に言わなかった言葉を発した。

  「そんでお前にケガなかったんか?」

「えっ?」
私は一瞬戸惑った。いつも厳しい主任だけが私のことを心配しているのだ。「はい……、ケガは、ないです。自分も、相手も。車はオシャカですが」
「けが人がおらんかったらエエがな。お前が出した損失くらい、仕事で返せる」
「はい……」
それ以上は言葉にならず、主任の言うことも聞いてるようで聞くことができなかった。

 それから私は謹慎を終えて職場に戻った。冷たい同僚の顔を見ただけで視線を反らし、自分のデスクに座った。主任の姿を探したが、既に外回りに出ているみたいだった。
 いつものように長引き出しを開けると

   「無理するな、気ぃ付けて行けよ
       へこたれたらアカン」

と殴り書きのメモが一枚、主任の字だ。
 私はこの一枚を見て良くない考えはまるでそんなものは最初からなかったかのように消えていた――。