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ワルツ ~二十歳の頃~

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 島津は、うっとりした表情から怒った口調になってきた。最初ひそひそ話で始まった会話も、島津の感情の豊かさか、ずいぶんと変わって声も大きくなっている。
「そしたら、原田さんが急に、ゲラゲラ笑い出すんだ。何だせっかくの気分が台無しじゃないかって思ったよ。俺は抱いていた手を放して原田さんの顔をを見たら、涙が見えたんだ。それから彼女は下を向いて」
 今度は悲しそうな顔をして島津は話しを中断し、また続けた。
「ちょっと沈黙があって、「ゴメンネ」と原田さんが言って。それから俺達は駅に向かって歩いたんだ。あたりさわりの無い会話をしながら。彼女は、もうあの時と全然別人のような顔をしてさ。あの涙が、嬉しさか、悲しさか、可笑しさか分からないんだ。どう思う?」
 急にどう思うと聞かれても困るなあと思いながら「それで島津はどう思うんだよ」と聞いてみた。
「解からない。今まで気にもとめなかった彼女に少し興味が出てきたが、好きというのとは違うような気がする。それより女そのものが昨日のことで余計に解からなくなった」
 島津が昔の文豪みたいに悩んでいるのを見ながら、俺もそうゆう経験をして悩んでみたいとも思った。俺自身は島津よりさらに(分からない)なのだから。
「彼氏にふられて、ぽっかり空いた穴を塞ぎたくなってというとか」
 俺はそう言ってみたものの、自信が有るわけではない。
「穴か、別の穴を塞ぎたかったなあ」
 島津は自分でそう言って、顔をあからめた。素直で純情な九州男児であった。そんな所が好きでもあるのだが、同じ田舎出身という気安さが二人を友達にしている。
「それで、今日は原田さんと話をしたのか?」
 俺は今日の二人の行動を思い出しながら尋ねた。何時もとどこも変わった所は見られなかった。
「ああ、今までどおり、何も変わっていない。もうあれは俺の妄想だったんじゃないかと思えるぐらいだよ」
 島津は、戸の鍵を閉めながら自信のなさそうに答えた。
「あああ、恋がしたいなあ」
「あああ、アレもしたいなあ」
「全然もてないタイプではないよな」
「ただ慣れてないだけだよな」
「風俗はやだよな」
「ウン」
 純情な二人は並んで会社を出た。根拠のない自惚れと不安を胸に、ちょっとだけ大きな希望を持って。


♪切なさを生きて君
 前向きになるのだや君
 物語は 螺旋に
 この世からあの世へと かけのぼる
  
   生きても生きてもワルツ
   死んでも死んでもワルツ
   出会いも出会いもワルツ
   別れも別れもワルツ