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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「礼はいらないわよ。助けられた借りを作ったままなのは嫌なだけ。それより地底湖のことだけど、魔物だけじゃなくて人間もいたわ。悪魔教徒かは分からないけど」
 もっとも、こんな場所に普通の人間がいるとは思えないが。
「悪魔教徒がいるなら、速く探し出さないとね。やっぱり地底湖かしら」
 カンテラの明かりは向こう岸まで届かなかった。それに地底湖は悪魔の気配が充満していて、誰かいたとしても何者なのかまではよく分からない。だがあれが悪魔教徒なら、あの巨人の魔物が襲い掛かってきたのはそいつの仕業だろう。やはりあの奥に、何か見られては都合の悪いものがあるのだ。
 とにかく地底湖に戻ろう。リゼがそう言おうとした時、不意にアルベルトが振り返った。彼は何かを探すように、自身がやってきた方向を見ている。するとその方角から、足音が聞こえてきた。等間隔な足音と一緒に、闇の中にぽつんと小さな明かりが浮かぶ。それは上下に揺れながら、徐々に近づいてきた。
「おーい!」
 その声と共に駆け寄ってきたのはゼノだった。何かと戦った後らしく、衣服には引っ掻かれたような跡が残っている。ゼノは半壊したカンテラを手に走ってくると、足を止めて息を切らした。
「おわ!? おまえ何でここにいるんだ!?」
 まるで幽霊でも見たような表情で、ゼノはまじまじとリゼを見つめた。目を丸くし口を開けた間抜けな表情を見つつ、リゼは腕を組んだ。
「いたら悪いかしら。ちなみにティリーとキーネスもいるわよ」
 言うが速いか、ゼノとは反対側の通路から二人分の足音が聞こえてきた。二人もようやく追いついたようだ。ほどなくして、松明を手に闇の中から現れたティリーは、集まった三人の姿を見てお化けでも見たような表情になった。
「リゼ! 無事ですのー! ってアルベルトにゼノ!? 何でここにいるんですの!?」
「なんだ。自力で脱出したのか。確かに迎えに行く必要はなかったな」
 腕を組んだキーネスは特に感動もなく淡々と言う。親友の無事が嬉しくないのかよーとゼノはぼやいたが、キーネスが優しい言葉をかけてくれるわけもない。ゼノはしばし不貞腐れた顔をしていたが、そこから全員を見回し、一転して明るい表情になった。
「ともかく全員無事だったってことだな! よかったよかった!」
 腰に手を当てて、ゼノははっはっはっと笑った。洞窟の中で、ゼノの声はよく響く。しかし、キーネスに冷たく「敵を呼びよせる気か阿呆」と突っ込まれ、ゼノはまた不貞腐れた。
「本当に、みんな無事でよかった」
 アルベルトが二人に向けてそう言うと、キーネスはゼノを無視して答えた。
「まあな。しかし俺達は船に乗っていたからともかく、あの嵐の中よく二人とも無事だったな」
「運よくボートを見つけられたんだ。それでもよく陸まで辿り着けたとは思うが。――そういえば、リゼはどうして助かったんだ?」
「さあ」
 アルベルトの質問に、リゼはあっさりと言った。アルベルト達は怪訝そうな顔をしたが、構わず続ける。
「岸に流れついた後は近くの町の人に助けてもらったけど、どうやって陸まで辿り着いたのかは自分でも分からない。海に落ちた後の記憶がないから。運が良かったんじゃないの」
「運の良さだけで助かるとは思いませんけど・・・・・・」
 ティリーは首をかしげていたが、説明しようがないからそれ以上は何も言わないことにする。今、助かった方法について議論しても仕方がない。
「私がどうして助かったかなんてどうでもいいでしょう。それよりシリルよ」
 そもそもシリルを助け出すためにここまで来たのだ。全員無事にそろったのだし、こんなところで悠長にお喋りしている時間はない。
「そうだったな。ティリー、キーネス。この奥に地底湖があるとリゼに聞いたんだが、何か見つけたか?」
 アルベルトは二人に向き直ると、単刀直入にそう尋ねた。それに、ティリーは考え込むように眉を寄せて答える。
「地底湖なら行きましたけど、魔物はいましたが悪魔召喚に関わるものはありませんでしたわよ」
「奥まで行ったのか? 地底湖は大小二つあって、短い川で繋がっているはずなんだが」
「川?」
 アルベルトの言に、キーネスが疑問をはさんだ。
「川なんてなかったぞ。地底湖の奥は行き止まりだった」
 戦いの成り行きだが、二人は地底湖の奥まで行ったらしい。キーネスが言ったことにティリーも頷いている。
「なら記憶違いか・・・・・・それとも地形が変わったのか・・・・・・」
 考え込みながら、アルベルトはそう呟いた。どうやら教会の地図には地底湖が二つ記されているらしい。しかしティリー達は二つ目の湖はなかったと言う。悪魔の気配は、確かにあの湖の奥からしていたのだが。
「教会はここの地図を保有しているのか」
 考え込むアルベルトに、キーネスがそう尋ねた。興味深そうなキーネスに対して、アルベルトは考え事をしながらほとんど上の空で答える。
「ああ。悪魔祓い師でも一部の人間しか知らないが」
「興味深いな。後で知っていることを教えてくれないか? もちろん対価は払う」
「いや。さすがに全て覚えているわけじゃない。地底湖は特徴的だったから記憶に残っているだけで、教えられることはほとんどないよ」
「――さすがに教会の重要機密は明かせない、か?」
「・・・・・・」
 アルベルトは僅かに眉をひそめただけで何も言わない。キーネスもそれ以上追及しようとしなかった。微妙な沈黙が流れ、重たい雰囲気がその場を満たす。
「あのさ、一つ聞きたいんだけど」
 不意にその静寂を破ったのはゼノだった。
「何か食い物持ってない?」



「よく食べるな。この状況で」
 乾パンをガツガツ平らげていくゼノを見て、キーネスは呆れ気味にそう言った。この辺りには汚水が流れていないとはいえ、ここは仮にも下水道である。異臭はしないまでもむせ返るような水の臭い、そして息苦しさを覚えるほどの悪魔の気配に満ちているのに、ゼノは構うことなくパンを平らげていく。
「腹が減っては戦は出来ねぇだろ。シリルを助けなきゃいけないんだからな! あ、オレはもう大丈夫だから残りはアルベルトにあげてくれ」
「いや、俺はそんなに食べなくても――」
「五日もまともに飯食ってないんだからちゃんと食べろよ。お前が倒れたら困るんだからな」
「あら、貴方達五日間も絶食してたんですの? ならもっと胃に優しいものを食べないと却って体調を崩しますわよ」
 いま体調を崩されても面倒見きれませんわ、とティリーは言ったが、ゼノは気にした様子もなくパンを咀嚼している。キーネスが止めないあたり、ゼノの胃袋は鉄製で、これぐらいのことはなんともないのかもしれない。実際、パンをしたたか食べたゼノは体調が悪くなる様子も見せず、やたら元気になっていった。
 そうこうしているうちに巨人の魔物と交戦した地底湖に戻ると、そこは奇妙な静寂に包まれていた。魔物はあらかた倒したとはいえ、岸辺に行っても今度は何も出てくる様子がない。まさか、番犬はあれだけだったのだろうか。湖面を氷雪の魔術で凍らせて奥を目指しながら、リゼは周囲を見回した。
「魔物が出てくる前、あの辺りに誰かいたわよね」