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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 その時、悪魔教徒の一人がナイフを投擲した。鋭いナイフは空を裂き、真っ直ぐリゼの元へ飛ぶ。しかしそれは誰かが動く前に、ティリーの魔術によって弾かれた。
「どうやら奴らはリゼを狙いたいみたいですわね」
 ティリーはそう言って、腕を組んだ。三人の内二人はフードを被っているから分かりにくいが、確かに奴らの視線はリゼに向いている。顔の見えている一人など、まるで親の仇でも見るような目だ。「なるほど、私が風の結界を張っているから、先に排除したい訳ね」
 風の結界の外を、雨水が滝のように流れ落ちている。さながら水の円蓋の下にいるようだ。結界を張る前のように、あれほどの雨水を被ることになるのは願い下げだ。
「ならばこうしよう。俺とローゼンで奴らを足止めとランフォードの護衛をする。ゼノとスターレンはクロウと子供達を探せ」
 キーネスが指示を出すと、全員が頷いた。
 真っ先に動いたのはティリーだった。
『大地に平伏せ!』
 ティリーが高らかに唱えた瞬間、発生した重力魔術が悪魔教徒達を捕え、身動きを封じた。動けなくなった悪魔教徒達の横を、ゼノとアルベルトがすばやく走り抜け、船室へと続く階段を下りていく。その間にも悪魔教徒達は重力場から逃げ出そうともがいていたが、その程度のことでティリーの魔術から逃れられるはずもなかった。
「無駄ですわよ。わたくしの魔術からは逃れられません。諦めて大人しくしておいてくださらないこと?」
 不敵に笑って、ティリーはさらに重力を強くした。悪魔教徒達は声もなく重力に押し潰されていく。しかしその時、上空から降り落ちた黒い閃光が重力魔術の力場に直撃した。力場は閃光によって破壊され、四散して消滅する。自由を得た悪魔教徒達の幾人かはアルベルト達を追って船室へ向かおうとしたが、その前にキーネスが立ち塞がった。
「悪いがあいつらの邪魔してもらっては困る」
 だが悪魔教徒達が制止を聞くはずもない。一斉に斬りかかってきた彼らに対して、キーネスは双剣で応戦した。
 悪魔教徒達はキーネスに任せて、リゼは上を見上げた。そこは黒い閃光が落ちてきた方向だ。
「あいつを止めないとね」
 風の結界の外。マスト上で風雨を浴びながらも静かに佇んでいる黒ローブの人物。奴の足元には禍々しく光る魔法陣らしきものが展開されている。そこから立ち上る風は天まで立ち昇り、渦巻く烈風を創り出していた。術師を止めなければ、この嵐は止まらない。
 なら、やることは一つだ。
「ティリー。あいつを撃ち落として」
「お任せあれ!」
 そう言うなり、ティリーは掌に火球を創り出した。それは見る間に大きくなり、大の大人を飲み込むほどになる。燃え盛るそれを、ティリーはボールを投げるような動作でマスト上の悪魔教徒めがけて投げつけた。
 放たれた炎はマスト上の見張り台を包み込み、瞬く間に燃やし尽くしていった。熱気は立ち昇る風をも飲み込み、嵐の術そのものも破壊しようとする。しかしティリーの火炎魔術が猛威を振るう中、突如として燃えるマスト上から炎に包まれたものが落下していった。
 それは真っ直ぐに甲板へ落ち、鈍い音を立てた。



 狭い廊下に、二人分の足音が響く。この漁船は大分年期がいっているようで、歩くたびに床板が軋み、静かに進むことが出来ない。どこかに潜んでいるかもしれない敵に位置を知らせることになってしまうが、仕方ない。見つかったら交戦するしかないだろう。と思ったのだが、
「人の気配がないな」
 先行するアルベルトが廊下を覗き込みながら言った。それにならって、ゼノも廊下の角から顔を出す。確かに、廊下には誰もいない。上での騒ぎと比べて、船内は不気味なほど静かだ。
「悪魔教徒は上にいる奴らで全部なのか? だったら助かるんだけどな」
「人数が足りないから、隠れていないのであればあと三人いるはずだ。シリル達を見張っているんだろう」
 廊下の左右にはいくつかの扉がある。あの中のどれにシリル達や悪魔教徒がいるのだろう。物音も話し声もしないから、どれかは分からない。もっと近づいて一つ一つ調べていくしかないかと思ったゼノは、廊下の方へ慎重に足を踏み出した。すると、
「待ってくれ」
 唐突に腕を掴まれ引き戻された瞬間、廊下奥の部屋の扉が軋みながらゆっくりと開いた。勝手に開いたかのような緩慢な動きだったが、建てつけが悪い訳ではない証拠に、戸の陰から黒い服を着た人物が現れる。しきりに廊下の様子をうかがっているそいつの腕には、黒いローブをかぶせられた小柄な人間が抱えられていた。
「あれってまさか・・・・・・」
 悪魔教徒に抱えられている人物は意識がないのか身動きが取れないのか、抵抗する様子はない。悪魔教徒が身じろぎすると、黒いフードがずれて隙間から薄汚れた金髪がこぼれた。
 ほとんど無意識のうちに、ゼノは一歩前へ踏み出した。けれど、廊下の陰からは出ない。それぐらいの冷静さはあった。床がみしりと音を立てたが、奴は気づいていない。チャンスはあの悪魔教徒が背中を見せた瞬間だ。それまで、落ち着いて――
 ――その時、 風を切る音が右の方から聞こえた。
 反射的に頭を下げると、飛来したナイフが背後の壁に深々と突き刺さった。続けて二本、三本と、鋭いナイフが飛んでくる。突然の攻撃にゼノはよけるのに精いっぱいで、剣を抜いている暇もなかった。
 しかし、アルベルトは違った。彼は一歩踏み出しながら抜剣すると、ナイフを次々と叩き落としたのだ。さらには弾いた一本を掴み、ナイフが飛んできた方向へ投げ返す。壁ではない、柔らかいものにナイフが突き刺さる音。その次の瞬間には、暗闇から短剣を手にした悪魔教徒が飛び掛かって来た。
 瞬間、ゼノは剣を抜いて飛び出した。狭い船内にも関わらず器用に剣を振るい、悪魔教徒に斬り掛かる。悪魔教徒が手にしているのは小さな短剣。ゼノの大剣を受けるには力不足に思われた。が、
 高らかに響く金属音。それに一拍遅れてゼノは驚きで目を見開いた。ゼノが振るった大剣は、あろうことか悪魔教徒が片手で持った短剣で止められてしまったのだ。
 力を込めて押しても悪魔教徒はびくとも動かない。どうしてだ。自慢じゃないが腕力には自信がある。その上この得物の差。受け流すならともかく、真正面から受け止めるなんて不可能だろうに。
 その時、ゼノの左側から凄まじい速さの突きが放たれた。剣が狙うのは悪魔教徒の右肩。全くぶれることなく目標を貫き、確実に傷を負わせる。悪魔教徒の力が弱まったのを見たアルベルトは、すぐさま剣を引くと相手の手から短剣を弾き飛ばした。
 しかし、悪魔教徒は引こうとしなかった。それどころか丸腰のまま、こちらに殴り掛かってくる。さして筋肉のついているように見えない細い腕だったが、アルベルトが避けた瞬間、その背後にあった壁が大きな音を立てて陥没した。
「な、なんだ!?」
 壁は完全に破壊され、木片が飛び出ているというのに、悪魔教徒は平然としていた。しかし筋骨隆々の大男ならまだしも、この悪魔教徒は細く、それほど力があるようには見えない。さきほどの剣を合わせた時といい、こいつは一体なんなんだ。
「ゼノ! 下がれ!」