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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 フロンダリア北に位置する旅人の休息所となっているオアシスは思いの外広かった。宿屋や食事処、道具屋や鍛冶屋までもが並び、広さは小さな村ほどある。キーネスが情報収集に出掛けた二日後、約束通り来た彼からの連絡には、たった一言、このフロンダリア北のオアシスに来いと書かれていたのだ。ただ行商人や旅人で賑わっていて人探しは手間がかかる上、キーネスの手紙にはオアシスに来い、とは書かれていたものの、オアシスのどこなのかまでは記されていなかった。いや、正確には記されてはいたのだが誰にも読むことが出来なかったのだが。ただ一人を除いて。
「ちょっと待ってくれよ。もう少しで・・・・・・」
 ただ一人、手紙に記された合流場所を読み解ける人物であるゼノ・ラシュディは、フロンダリアを出てから一日近くの間、何回言ったか分からない台詞を繰り返した。ずっと手紙とにらめっこを続けているのでそろそろ視線で紙に穴をあけられそうなくらいだが、その割に暗号の解読は進んでいないようだった。
 そう、手紙で指示された合流場所はなぜか暗号で書かれていた。「オアシスに来い。合流場所は下記の通り」までは普通の文字だったのだが、その後はミミズがのたくったような奇妙な記号が並んでいたのだ。アルベルト達にはこの記号が何を意味するのかさっぱり分からなかったが、ゼノだけはすぐに分かったらしい。この意味の分からない記号の列は、ゼノとキーネスが子供の頃、遊びで作った暗号だというのだ。そして当然、暗号作成者である本人達にしか読めない。よってゼノを頼りにするしかないのだが・・・・・・
 不意に手紙とのにらめっこをやめた彼はくるりと振り向くと、へらっと笑った。
「全っ然。分からねぇや! あはははは! ははは・・・・・・・・・・・・ごめん」
 ゼノは愛想笑いを浮かべ、能天気に笑っていたが、リゼ達の非難がましい視線を受けて尻すぼみになっていった。小さくなって「いや本当に悪かった。ごめんなさい」と繰り返すが、読めると豪語しておいてこれなのだから呆れもする。リゼは頭に手を当ててため息をついた。
「で、暗号が読めないということは合流場所が分からないということ? どうするのよ」
「まあ広いといっても村ぐらいなんだから探せば見つかるんじゃないか?」
 落ち込むゼノを見かねたのか、アルベルトがそう提案した。ただ、確かに探せない広さではないのだが、いかんせん人が多いのだ。ちょうど行商人達が集まっている時期らしく、この人ごみの中からキーネスを探すのは少々骨が折れる。皆一様に砂除けのマントとフードを身に着けているから余計にそうだ。その手間を省くための手紙なのに、何故暗号で書くなんてことをしたのだろう。面倒なことを・・・・・・と思っていると、図ったように背後から声が飛んだ。
「探す必要はない」
 いつの間にかゼノの背後に立っていた人物がそう言って進み出てきた。砂除けのフードを下ろすと、見知った顔が現れる。突然現れた親友を見て、ゼノは素っ頓狂な声を上げた。
「キ、キーネス! おまえ、いつからそこにいたんだ!?」
「少し前からだ。紙切れを見つめて歩き回っているから見つけるのは簡単だった」
 しれっとそう言って腕を組むキーネス。それも口ぶりからして、キーネスの方から見つけるつもりだったらしい。
「そっちが見つけるつもりなら合流場所を暗号で書くなんて面倒なことはしないでほしいのだけど」
「そうだそうだ! 読めなくて困ったんだぜ!」
 リゼの苦言に便乗してゼノも文句をつけたが、リゼが一睨みするとたじろいで小さくなった。読めなくて困ったのはともかく、読めると豪語した割に読めなかったのだから、反省して欲しい。
「悪かったな。念のためだ。だが暗号で書いていても、この通りそれほど支障はなかっただろう。ゼノのことだから忘れてるだろうと思っていたしな」
 その発言に、ゼノはがくりと肩を落とした。
「じゃあなんで使ったんだよ・・・・・・」
「本当に覚えてないか確認するためだ。思った通りだったな」
 それから、キーネスはぶすっとしているゼノを放置して誰かを探すようにあたりを見回した。念入りといっていいほど長くそれを続けた後、
「オリヴィアは置いてきたんだな」
「連れてきた方がよかったのか?」
「まさか。病人に来られても足手まといになって困るだろう。ただお前だとあいつに押し切られるんじゃないかと思っただけだ」
「オリヴィアの押しに弱いのはオレじゃなくておまえの方だろ」
 不本意だといわんばかりにゼノが言い返すと、キーネスは無言で目を逸らした。言い返されるかと思って身構えていたゼノは反撃が一切なくて拍子抜けしたらしい。あっけにとられた様子でしばらく静止していたが、キーネスが踵を返して歩き始めたのを見て、「おい、逃げるなよ!」と追いかけた。
「怪しい商人の一団がルルイリエの方角へ向かっているという情報を掴んだ。奴らで間違いないだろう。ただ、どうやら途中で二人合流して、全部で七人になっているようだ」
 ゼノを完全に無視して、キーネスは本題に入った。人ごみを器用にかき分けながら進んでいく。その後に続きながらリゼは問うた。
「確かなの?」
「水売りの話によると、一昨日訪れた客に砂漠越えに必要な水を八人分買った商人の一行がいた。ところが、その一行はどうみても七人しかいない。馬車への積み込みを異様に拒否する。商品らしき木箱は数が少なすぎる上、物が入っている様子がない。行商人にしては護衛の退治屋を同行させていない。他にも色々あるが、決定的なのは、七人のうち五人が、一様に怪我をしていたことだ」
「怪我?」
「火傷だ。雷に撃たれたような魔術性の傷。包帯で隠していたらしいが、顔のはさすがに隠しきれなかったようだ」
 つまり、オリヴィアが付けた傷ということか。ここまで怪しい点が揃えば、悪魔教徒達で間違いないかもしれない。
「シリルは無事なのか・・・・・・?」
 ゼノが心配そうに尋ねると、キーネスはすぐさま答えた。
「フロンダリアの入口辺りで、金髪の少女を馬車に連れ込んでいる様子が目撃されている。少なくともその時は外傷等は見られなかったそうだ。今はどうかしらんが、水を用意しているなら殺す気はないだろう」
「そう・・・・・・だよな。わざわざ誘拐している訳だし・・・・・・」
「余った分がクロウの分ならの話だがな」
「・・・・・・おまえ、もうちょっと安心出来るようなことを言えよ」
 ゼノの抗議に、仮定の話だ、と事もなげに言って、キーネスは話を続けた。
「奴らが向かっているのはルルイリエの方角だ。無論、目的地はそこではないだろう。奴らが悪魔教徒なら、目指すのはその先だ」
 ルルイリエの先にあるもの。悪魔教徒が向かうであろう場所。なるほど。そんな場所は一つしかない。皆の考えを代弁するかのように、アルベルトがその場所の名を呟いた。
「――ヘレル・ヴェン・サハル特別自治区か」
 ヘレル・ヴェン・サハルは悪魔教徒の中心地だ。
 アルヴィアとミガーは別々の大陸にあり、帯状の内海で隔てられている。ゆえに二国間の行き来は船でしかできないが、一か所だけ、地続きになっている場所がある。