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夏目 愛子
夏目 愛子
novelistID. 51522
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Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記

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おわりに ―夕陽のある生活


 
 
 今回の旅で気づけた、最も尊いこと。
 
 それは、旅行中ほとんど毎日、夕陽が落ちてゆく絵を、美しいなあと他の何をも考えることなく、眺めることができたことだった。 
 それから、旅の毎日を過ごすなかで、時間をほとんど気にしなくてよかったこと。
 
 当たり前のようでいて、なんて贅沢なこと。
 
 目の前の日々はただただ忙しく通り過ぎて、情報にあふれ、やることに覆われ、時間を常に意識し、それでも夕陽を眺める時間なんてもちろんない。
 
 もっとシンプルに。
 もっと穏やかに。
 もっと自分が大事に思うことを見極めて。
 
 夕陽を眺める時間を日常に少しでも取り入れることができたなら。
 みんながそれぞれの小さな幸福に気づけるような国になれるかもしれない。
 
 
 日本に帰国した直後は、まだ東京での早いペースに戻れず、毎日夕陽を眺める時間を作ろうと思いながらも、結局雑事や仕事に追われて、夕陽を実際に眺めることができたのはほんの二、三度だった。
 非日常の感覚を抱き続けて日々を過ごしたいと思いながらも、いつの間にか東京のペースに慣れ、再び以前と同じ日常に溶け込んでしまったのだ。
 夕陽を眺める時間なんてない、それなのに毎日時計を気にしながら過ごす、この日常に。
 
 それはそれで仕方がないことなのかもしれない。
 旅でしか得られないものだってある。
 もちろん理想は、旅で気づけた感覚を、日常でも大事に抱えて過ごすことではあるのだけれど。
 
 小沢健二も歌っていたっけ。
 「ぼくらの住むこの世界では
  旅に出る理由があり
  誰もみな手をふってはしばし別れる」
 
 
 新婚旅行から帰国し東京での日常が再び始まってから、早くも半年以上がすぎてしまった。
 帰国して改めて思うのは、みんな、いつでもどこでもスマホとにらめっこしているなあということである。あるいはこれは日本だけの現象ではないのかもしれない。世界じゅうの現代生活全般に見られる絵なのかもしれない。ただ、東京では電車に乗ることが多いのでどうしてもスマホ・ピープルが目につく。
 人とつながる、ゲームをする、情報を読む、動画を見る。確かにスマホにはいろんな楽しみがある。中毒といっても差し支えないほどにみんなスマホを見ている。
 具体的に何が悪いというわけではない。ただそれは「テクノロジーに支配されすぎて個々に孤立する人間たち」というタイトルのついた絵のように、どこかさみしい。
 人と人とが実際に向き合って笑いあったり、紙の書物を手にして集中していたり、ただ電車の中でぼんやりと外を眺めていたり、そういった光景を見かけると、私はなぜだかほっとする。
 
 
 だって、もしもあと1週間でこの世が終わるとしたら、大事な人と一緒に夕陽を眺めることができる世界と、個人個人がスマホに集中している世界と、どちらを選びますか?
 
 
 この旅行記の題名は、敬愛するUKバンドBLURの2ndアルバムから取った。
 もともとこのアルバム・タイトルは大好きだった。もちろん、アルバムの曲たちも。
 それが、今回の旅で感じたギリシャのおおらかさやアナログ感、オランダで感じたシンプルな「禅」に近い感覚、そしてそれらと対比される東京でのあくせくした生活。すべてがぴったりときて、このタイトルを拝借させていただいた次第である。