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夏目 愛子
夏目 愛子
novelistID. 51522
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Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記

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 そんなこんなで日は暮れて、夕飯は、昼間のサイクリング中に見かけた、市街地の中心を流れる運河に面したカジュアルなレストランで食べたい!とそのおしゃれなオープンテラスの(ギリシャは暑いからオープンテラスなのはわかるが、オランダも涼しい気候ににも負けずみんなオープンテラスが大好きだ)お店に向かって自転車をこいだ。しかし、そのお店はなかなか姿を現してくれず、迷路のようなアムステルダムの街を私たちは迷子のようにさまよっていた。そして、気づけば、何度も同じ道、同じお店に戻ってきてしまい、その迷路っぷりはミコノス・タウンも顔負けといったところだった。
 ようやくたどり着いたそのレストラン、期待していたのだが、味のほうは今回の旅行の中で最低の味だった。夫のほうはグラタンのようなものをいただいて、これはまだ食べられる味だったが、私のほうは豚肉のなんとかソースがけで、このソースがアメリカのバーベキューソースをさらに味の質を落としたような、得も言われぬ不思議なまずさだった。豚肉もぱさぱさと硬く、味気なかった。というわけで、申し訳ないけれど、ほとんどここでは食べなかった。

 
●2. 東南系@ホランド・カジノ
 夕食のあと、自転車でホテルに戻って、正装に着替える。楽しみにしていたカジノに行くためである。昼間は動き回るから、ショートパンツにTシャツ、サングラス、コンバース(ネイビーのオールスター)。夫も昼間はTシャツにカジュアルなパンツ、サングラス、コンバース(白のジャックパーセル)。しかしカジノは正装が必要とされるとガイドブックに書いてあったため、私はワンピースに黒タイツとハイヒール。夫も高級なシャツとパンツにベルトと革靴。このためだけに、靴が余分に一足必要だったわけだから、スーツケースの無駄使いといえば無駄使いである。でも、カジノに入れないという事態は招きたくなかったため、きちんと持っていった。
 
 その正装で、再び自転車に乗る。正装と自転車はあまり似合わないが、とにかく自転車が便利だし気持ちいい。
 せっせとこいで市街地中心部に入る手前にあるホランド・カジノに着く。カジノ自体は大きく立派でやや高級感もあるのだが、カジノのまわりには、競馬場のまわりにいそうな、あるいは人気のサッカー試合のスタジアムの外にいそうな、やさぐれた、少し危なそうな男が7、8人うろついていた。目を合わせないようにして、そそくさと建物の中に入る。
 
 建物の中にはすぐにエントランスがあり、がらんと天井が高い。入場料は5ユーロと良心的。1階の奥に部屋に進むと、客同士で戦うポーカーテーブルがいくつも並んでいる。テーブルはほぼ満席。やってみようかとも思ったが、あまりにみんな玄人戦士っぽいので躊躇し、結局2階へ。
 2階は、客同士で遊ぶというよりは、きちんと店のディーラーやらが仕切ってくれている場所だった。ポーカー、マルチポーカー、ブラックジャック、ルーレット、それ以外にもいくつかのゲームがあったが、私たちがわかったのはその4つ。夫は友人からバカラがおもしろいときいていたらしく、バカラがないことを残念がっていた。それでも、時折お酒をたしなみながら、それでもほとんどゲームに2、3時間の間遊びに集中し、とても楽しかった。結果、私13000円ほど、夫8000円ほど、それぞれ勝った。
 
 なお、実際のところ、中に入ってみると、正装という正装の人はさほどおらず、みんなジーンズやチノパン、ポロシャツや中にはTシャツの人もいたと思われる。私たちは「正装損」をしたわけではあるが、カジノに入れないかもしれなかったというリスクに比べれば、やむを得ない。
 
 途中、ブラックジャックに夢中になっていた時間帯に、ずっとゲームには参加しないで、解説者のように横でごちゃごちゃとしゃべっている男がいた。高い声で早口に、彼は延々としゃべり続ける。見た目は東南アジア風、タイかベトナムか、そういった感じの人種だが、英語は達者である。もしかしたら「日系アメリカ人」のように「東南系アメリカ人」なのかもしれない。
 私たちは、この人はきっと尊敬すべきブラック・ジャックオタクであるに違いない、したがってこの人に訊けばいろんなことを教えてくれるに違いない。そう思って、話しかけてみた。すると、流れるようにするするとしゃべってくれる。東南アジア人特有の鋭い眼光を放ちながら。
 
 「ディーラーのアップ札が6までの場合は、こっちは絶対ステイしないとだめなんだよ」
 「こっちが17以上の場合は、絶対ステイだよ」
 「ダブルダウンっていうのは掛け金をオリジナルの2倍に追加することができるけど、ヒットは1枚だけしかできなくなるんだよ」
 
 テーブルを離れようとした後も、彼はわざわざこちらに来てくれ、
 「また、何か教えてほしいことがあったら、呼んでくれ」
 とぽんぽんと私たちの肩を叩いて去っていった。おそらく、彼は真のブラックジャック・オタクなのであろう。
 
 こうして、この東南系とともに私たちのカジノの夜は更け、深夜3時の閉店後、ヒルトンに戻って爆睡した。