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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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「やあ、お待たせお待たせ!」

カラン、と鐘の音を強めに響かせて勢いよく戸が開いたかと思ったら、その向こうから小太りの中年男性がふうふう言いながら速足で入ってきた。
そして私の前をずいっと横切ると、そのまま例の女性の向かいにどかっと腰かけた。
くたびれた紺のスーツの上にはこれまたくたびれた茶色のコートを着たその男性は、右のポケットからハンカチを取り出したかと思ったら、冬なのに吹き出すような額の汗をぐいぐいとそれで拭った。
一瞬彼にぶつかりそうになった私はよろけはしたものの転びはしなかったので、体勢を立て直してそのまま彼女らのテーブルに向かった。

ふと、その時奇妙な感覚が私を覆った。
二人の姿を見ていて、まるで不釣り合いなはずのシーソーが不思議な均衡を保っているように感じられたのだ。
私は「いらっしゃいませ」と男性に声をかけながら、彼女の前にブレンドのカップをそっと置いた。
「やあ、いい匂いだねえ。僕もおんなじのを貰えるかなあ」
そして男性はニコニコしながら私に向かってそう言った。
「かしこまりました。ブレンドですね」
私はそう答えた。
マスターがまた同じものを淹れ始める。
何気なくその男性の方に視線を向けると、飾らず、極めて自然な感じでくつろぎ始めているのがマスク越しの表情でも分かった。
彼女とともにいられるのがきっと嬉しいのだろう。
でも私は同時にすごいなと思った。
もしも自分が彼ならば、ドキドキしてしまってとてもこんな風にリラックスしてはいられないだろうと思うからだ。
それで、ふと彼女の方を今度はちらりと盗み見た。
本当に何気なく、純粋な興味というか、二人の関係性もわからなかったし、この間違いなく天然素材気味の彼に対して、『パーフェクト・ビューティ』はどういう姿勢を見せるのかと思ってしまったからだ。
すると、