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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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などと頷きながらのたまったので、私はこくんと頷き三歩ほど後ずさり、距離間隔を十分に取った。
「え?なんで?」
マスターはそう言って頭の上にクエスチョンマークが浮かびそうな顔をする。
「いわゆるソーシャルディスタンスですから」
私はこの朴念仁にそう言って、目元だけでにっこりと微笑んでやった。
するとマスターは何か大げさに目を見開いて、『失敗した!』とでも言うようかのに、マンガみたいにがっくりと項垂れて見せた。


 ※

――ここまでがマスターの優しさなのだとしたら、私は仮面をつけたままそれに応えておく。
もしそうじゃなくて天然素材なのだとしても、私の感謝の気持ちは変わらない。
だって言葉っていうのは受け取る側次第で善意にも悪意にもなることがあるのだから、私はせめてそれを肯定的に理解しておきたいと思うからだ。

そんなことを思っていると、ふとカランとベルの音がして、お店の戸が不意に開いた。
「いらっしゃいませ」
私は顔を上げてそちらを見た。
すると、