小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

霧雨堂の女中(ウェイトレス)

INDEX|61ページ/117ページ|

次のページ前のページ
 




――ズル。
私にはマスターが言うその意味がイマイチよく分からなかった。
だけど、
「今、空でも飛んでる気分なのは彼のほうじゃないのかなあ。
 それこそ黒い翼の末裔だしねえ」
マスターはそう独りごちて、カップを厨房に下げて洗い物を始めた。

私は賭け事は好きじゃないし、ズルやペテンも嫌だけど、今回の賭けはズルばかりだった。
でも、それはそれで良いんじゃないかと思う。
たどり着く結果が誰かの幸せであるなら、加えて、そのまわりにも幸せしかないのなら、そのいかさまな賭けやズルは、きっと素敵なものなのだ。

ヒトは嘘をつく。
でも、つかれる嘘は全てが悪じゃない。
気持ちを廻る嘘、何かを想う嘘、ひたすらだます嘘、傷つける嘘、
それから、
ヒトとヒトを繋ぎ、また繋ぐための嘘。
私はもう一度さっきの三人のことを想い、今更その姿を追うように、何となく窓の外へと目をやった。
店内に残る僅かなコーヒーの香りが、まるで彼らを包んでいた優しい嘘のように感じられて、私はそこへ吹きかけるように、幸せなケーキのキャンドルを吹き消すように、ふうっと柔らかい息をひとつだけついた。


<『嘘と女中と霧雨堂』了>