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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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そこまで言った彼女の顔は俯き、真っ赤になっている。
今時まったく珍しいほどの奥手の子だ。
彼はと言えば、そんな彼女を真っ直ぐ見つめていて、真剣な面持ちで口を引き締めている。
やがて、彼の口がゆっくりと開き、たったひとこと
「もちろん」
と優しく紡がれた。
「はい、カップル成立!」
騒々しくそう言ったのは人形の方の彼女だった。
小さな人形の手で鳴らない拍手をせわしなく送っている。

『茶番』という言葉は概ね良い印象で使われない。
しかし、ここで茶番を演じた彼と彼女、その観客であるもう一人の彼女には、私は悪印象を抱きようもなかった。

図らずも、人形遣いの彼女はこの茶番に対し、
『絶対に負けない賭け』という言葉を使った。

そしてその『勝者』がふと目を細めた。
くしゃっと細まった目は糸のように細くなり、

あれ?

一瞬、見えなくなったかと思ったら、消えた肌色の間から透き通る涙が滴った。
嗚咽に似た声をかすかに上げながら、しかしその口は笑むように開かれた。
大きく一度開いた口からは、なぜかすべて真っ黒な歯がのぞいた。
ふと何かに気がついたかのように、勝者の彼女が両手で口元を覆い隠した。
また開かれた目はさっき私が見たままに、鮮やかな緑色の瞳をしていた。


――目の錯覚だったのだろうか?


「気にすること無いのに。それだって個性よ、個性」

人形遣いの彼女がそう言って、彼女の肩にぽんと手を置いた。

「そうだよ、オレだって・・・その、変わってるとは思うけど、全然嫌いじゃないし」

彼がそう言って、どこか照れた風にそっぽを向いた。
その言葉に彼女がもう一度微笑み、綺麗な緑色の瞳は緩やかな優しい曲線を描きながら、もう一度完全に肌色の中に消えた。