霧雨堂の女中(ウェイトレス)
マスターはそう言って一度三人に向けてお辞儀をした。
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなくってさ。私も分かるから、マスターの言うこと。でも今日は特別ってことで、許して?」
人形女子はまた『人形の声』に戻って、さらにその手の人形がマスターに向けて合掌して見せた。
「分かってますよ。だから私もあなたへの加勢として『抵抗』したんですから。どうぞごゆっくり、でも、冷めないうちに」
マスターの言葉に人形女子は頷いて、ぺろっと一度舌を小さく出して見せた。
――あれ、でも?
と私はまたふと疑問に思った。
日焼けの彼が『紅茶の澄んだ味が好き』と言うのをマスターが聞いたのは、『マスターが豆を挽き始めてから』じゃなかっただろうか?
マスターはどこまで見越していたのだろう?
カウコーヒーが出るんじゃないかとは私も思っていた。
私は人形女子の彼女がマスターと面識があるものだと思っていたし、実際、それは事実なのだろう。
では、マスターはほんとうに『それ』を見越していたのか?
作品名:霧雨堂の女中(ウェイトレス) 作家名:匿川 名