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熱されたフライパンの上に四つ切りの厚い食パンを乗せる。
ちりちりとパンがあぶられる音が響き始める。

それに併せて熱したサイフォンの辺りから店内へ向けほのかに漂い始めたのは、やはり私が好きな爽やかな香りだった。
その段になって、ずっと続いていたカウンターの彼らのおしゃべりがふと止まった。
そらみろ、と私は思う。
日焼けの彼の目が丸くなっている。
香りに鼻腔をくすぐられたからなのだろう。
一方人形遣いの彼女は目を細くして、横目にそんな彼の様子を見つめている。
彼女はこの結果を確信していたのだろう。
白いコーヒーカップに注がれた三杯のコーヒーが恭しくそれぞれへ差し出される。
ふわっと立ち上る薄い湯煙が、その上に無意識に差し出されたそれぞれの顔へと昇りながら注ぐ。
彼はカップの中を見つめている。
これはもちろん紅茶ではないし、正真正銘のコーヒーだが、深い黒の中でかすかにカップの底が透けているのが分かるはずだ。
このコーヒーはそんな優しい透明さを持ち合わせているのだ。
呆然と彼がカップを手に取る。
そのまま縁に口をつけ、一口をずっと啜った。