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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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「そりゃオレだってコーヒーを全否定はしないけどさ。でもなんて言うか、飲み物としての『純度』が違うと思う。良い紅茶は透明感って言うか、んー・・・『澄んでる』けど、コーヒーはどこか雑味が残るような気がしてさ」
日焼けの彼がそう言う。
「それはあんたがインスタントコーヒーとか、安い缶コーヒーしか飲んでないからじゃない?」
人形女子の抱える人形がさらっとそう返す。
「そんなことはないぞ。喫茶店だって何軒も行ってる。でもオレの考えは変わらない。『挽き立て』だって言うほどのものじゃないし、オレに言わせればコーヒーなんてのは過大評価された飲み物だ」
ふと気がつくと、二人の様子を眺めていたもう一人――目が髪の毛ですっぽりと隠された彼女、『目隠し女子』とでも言えばいいのだろうか?――が苦笑いを浮かべ、少しだけ申し訳なさそうにちらちらとマスターの様子を伺っているのが分かった。
マスターはと言えば完全にポーカーフェイスだ。
彼らの雑談に気がつかないはずはないのだが、すました様子で淡々とコーヒーを三杯入れるための用意を続けている。

「でもこの賭けさ、オレが勝ったらどうするんだよ」
そう言ったのは日焼けの彼だ。
「そうね、何でも言うことを聞いてあげるわよ」
応じるのは人形女子の彼女だった。
その様子を口を閉じたまま微笑みながら目隠しの彼女が見守っている。
「本当に何でもなんだな」
彼女の提案を受け、彼が何か企んでいそうな上目遣いをしたかと思ったら、ゆっくりとした言葉でそう念を押す。
その様子にただならぬもの感じたのか人形女子が少しだけぐっと背をそらす。
「ええ・・・まあ。この子がね」
人形女子が抱えていた人形は、唐突にそう言うと目隠し女子の方をすっと指さした。
急に話が振られたことに驚いたように目隠し女子が身をすくめる。
「なんだよ、それ!」
日焼けの彼がまさかの展開に目を丸くする。
人形女子の袖を目隠し女子が引いた。
そして振り返る人形女子に向けて小さく首を横に振ってみせる。
とても不安そうな顔つきだ。
「大丈夫だって!」
と人形女子の持つ人形は(ああ、なんだかややこしいけれど)胸を張って答えた。
「これは『絶対に負けない賭け』なんだから、あんたも何を要求するか考えておきなさい。
 ――勝ったらなんでも言うこと聞いてくれんですってよ?」
「ちょっ、なんでそうなる!」
日焼け男子が面食らったようにそう言った。
「だって当然でしょ。女子に『なんでも言うことを聞かせる』なんて賭けをするんなら、オトコにはそれなりのリスクを背負ってもらわなくちゃね。ならせめて最低限同条件で。それとも、何かこちらには上乗せしとく?」
冗談、と彼が首を横に振る。
強引な論理がいつの間にか成立し、彼は不自然かつ不利な賭け条件にいつの間にか乗ることになっていた。