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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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梅雨と女中と霧雨堂


薄暗いお店の中で、私は眉間に皺を刻みながら指先に集中していた。
煎れたてのエスプレッソにミルクを注ぎ、円を描こうと試みる。
目標は大小三つ。
私が描こうとしているモノは、熊の顔だ。
ひとつめは簡単にできた。
大きなモノで、顔の中心になる部分だ。
後の二つは小さく、耳になるように頭の上の方に設ければいい。

――あ。

ミルクを垂らしすぎたのか、右の耳が大きくなってしまった。
私は慌ててピッチャーを傾ける手を止めた。
すると、カップを支えていた左手が揺らいで大きな円が楕円に変わった。
あれれ、と思ったのが悪かった。
さらにカップを揺らしてしまった左手は、私が思い浮かべていた可愛らしい熊の輪郭を歪んだいびつなモノに変えてしまったのだ。
私ははあとため息をついて、カップをカウンターに置き、ふり返ってお店の窓の外を眺めた。
灰色の世界を占めるのはしとしととした雨の姿で、当店の店名――『霧雨』堂――というよりは、もっとしっかりはっきりとした雨のカタチになって、街を潤していた。
そう、つまり日本の片隅にひっそりとあるここ彩花市は、季節と地方のそのご多分に漏れず、梅雨時期に突入していたのだ。