第1章 7話 『魔獣者』
「得ならある。フォーリアとシェルリアの両国の争いを鎮めるこの鍵がいなくなってしまえば争いは止まらない。そうすれば、この先もずっと互いの国は血で血を争い、そして、憎み合い我々に素晴らしいショーを披露してくれるだろう??そして、最後にはフォーリア、シェルリアは両国共に滅ぶだろう。そうすればもはや、我らを止めようとする者もはむかう者もいなくなる。我らが直接手を下さなくても勝手に消えてくれるのだからな。…クッククク」
怪しく醜く微笑み、拾い上げた石を握りつぶす。
「これにより、邪魔をするゴミ屑共が消滅し、自動的に我らが主とする新しい世界に君臨することになるだろう。そう、新しい世界をな…クッククク。どうだ、そう考えてみると一石二鳥ではないか?クッククク…」
魔獣者は大きく高笑いをし、私をあざ笑うかのように見下していた。
そんなことのために…。フォーリアを…、シェルリアを…、そして…ヒナちゃんを。
「許しませんッ!!そんなこと絶対私がさせませんッ!!何としてでも絶対あなたたちのすることを阻止してみせますッ!!」
フォーリアのためにも、シェルリアのためにも、…そして、ヒナちゃんのためにもッ!
「クッククク。やってみるがいい。我らとてそう簡単にはやられはしない」
魔獣者は、戦闘態勢に入ったのかゆっくりとその大きな身体で身構える。
「私もです。では、いきますッ!!覚悟しなさい!!」
私は、ポケットからマジカルリングを取り出すと、呪文を唱える。
すると、私は眩いばかりの光に包み込まれる。力が漲ってくる。光が、リングが私に力を与えてくれる。
そして、光から解き放たれた時、私は白銀の衣装を身に纏っていた。
「ほぅ…。それが貴様らフォーリアの魔法使いの力か」
「えぇ、そうです。この姿にならなくてもそれなりの魔法は使えますが、この姿になればさらに秘めた力を躊躇せず引き出すことができます。私がこの姿に変身したということは、もうおわかりですね。覚悟してもらいますッ!!」
私は、魔獣者に向かって手をかざし、手に魔力を集中させながら呪文を唱える。
「我が身に眠りし大いなる力よ。今、この時この力を我のために解き放たん。その力をもってかの者に大いなる鉄槌を与えよ」
呪文を唱えると、私の手に大きな魔力が集結していくのがわかる。それを、さらに凝縮させる。
「いきますッ!!!」
私の手から凝縮された魔力が巨大なビーム状となって連続的に放たれる。
そして、私の放った攻撃が魔獣者に迫っていく。
「クッククク。このような攻撃…単に凝縮した魔力の塊にすぎん!力にだけに頼った所詮は愚か。こんなものかわしてしまえばどうということはない」
「さて、それはどうですかね。はぁッ!!」
私の合図と共に放たれた巨大なビームは魔獣者の上空でゆっくりと回転しながら、そして、それは次第にスピードが速くなっていく。次の瞬間、ビームは弾けて拡散し、まるで、雨のように、しかし、その一つ一つに大きな魔力を秘めた強大な雨が魔獣者を包み込むかのように降り注ぐ。
「何だと!くっ…」
魔獣者は逃げる術もなく私の攻撃を全体に受けてしまうのだった。
「どうですか?これでも愚かだと言いますか?」
「ま…まさか、これ程の力、技量だとはな…。正直、想像以上だ。これでは我とて到底かなわないだろう」
魔獣者は今の私の攻撃で大きなダメージを受け、既に向こうには勝機は見えていないようだった。
「では、もう降参してください。もう、あなたに勝ち目はありません」
「クッククク…それはどうかな」
魔獣者は突然、クスクスと笑い出し、にやりと意味深に微笑む。
「どういうことですか?」
「なぜ、我がわざわざこんな離れたところに現れたのか、なぜ、直接、貴様のいるあの場所に現れなかったのか…わかるか?」
「…え?」
どういう…こと?
「それは…貴様をあの鍵のいる場所から遠ざけさせ、注意をこっちに向けさせるためにわざわざここまでおびき寄せたのだ」
「……ッ!!ということは……まさかッ!!」
私の頭にいやな予感が過ぎる。それと同時にそれは確信と変わるのだった。
「今頃は我の仲間が……クッククク」
「ヒナちゃんッ!!」
私は急いで学園へと引き返そうと駆け出した。-だが
「おっと、ここを行かせるわけにはいかん。もう少し足止めするように頼まれているからな。だから、ここは通さんッ!!」
「くぅッ…」
急がないと…ヒナちゃんが危ない!!ヒナちゃん…私が戻るまで無事でいて…。
<次回へ続く>…
作品名:第1章 7話 『魔獣者』 作家名:秋月かのん