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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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エピソード7,美への欲望


 
 冬休みに入って直ぐ、私は駅前デパートへ向っていた。
 朝早くに身支度を整えてバスに乗る、いつもは学校近くで降りるけどしばらく揺られて駅前のバス停に降りると待ち合わせしていた人と合流した。
「お待たせしました」
 私は待ち合わせしていた人を見つけて手を振った。
 ただし、その人が男でないのが残念だ。
 待ち合わせの相手は塩田さんだった。
 私服に身を包んだ塩田さんはデパートの入り口に立って私に手を振った。
 
 私達はデパートの中に入った。
「ごめんなさい、折角の休日ですのに」
「大丈夫ですよ、気にしないでください…… でも素敵な服ですね」
 私は塩田さんを見た。
 首元まですっぽり包み込んだ白いシャツの上から青いコートを羽織り、下は膝丈まである赤い生地に裾が黄色のスカート、膝から下は黒い膝まであるブーツを履いていた。
 服の事は分からないけど、カジュアル系と言う奴だろうか? 全部合わせたら軽く3万は超えてるだろう。
「私、これをいつも見てますから」
 塩田さんは肩からさげてある鞄から一冊の雑誌を取り出した。
 表紙には大きく『HAPPONESS』と書かれていて、綺麗な服を着た笑顔の可愛い女の子が笑っていた。
「これ、大人気のファッション雑誌ですよ、私毎月チェックしているんです」
「そ、そうなんですか」
 塩田さんの目は凄く輝いていた。
 何かスイッチ入れちゃったみたいだった。
 人は誰しもスイッチを持っている、兄貴の場合は私、不破さんの場合はアニメやマンガの事になると話が止まらなくなる。
 塩田さんは私に尋ねて来た。
「白金さんはどんな服が好みですか?」
「えっ? ああ、いや、私は別に…… 近所の古着屋で買ってますから」
 実は私は服に千円以上かけた事が無い、現在着ているのは赤と白のストライプのシャツに赤い毛糸のマフラーを巻き、その上からピンクのパーカーを羽織り、下はデニムのスカートに黒いソックスとスニーカーで、全部合わせて2〜3千円するかしないかだった。
 それを塩田さんに話すと……
「何ですかそれはっ!」
「ひっ?」
 塩田さんは眉を吊り上げた。
 私は思わず大声に怯んだ。
 周囲も何事かと思い私達を見た。
「白金さんはそれでも女の子ですか? 自分の女子力を磨く努力をしないでどうするんですかっ?」
「い、いや…… 別に女子力とかは……」
「問答無用です! 行きましょう白金さんに似合う服装を選んであげます!」
 塩田さんは私の手をつかんで引っ張った。
 このままじゃ話がややこしくなるので参考書の事を思い出させ、私の事は後日改めてと説得した。
 塩田さんは残念と言うか腹立たしいと言うか、悔しいと怒りが入り混じった感じで顔を顰めたが、やがて納得してくれて書店コーナーへ向かう事にした。

 気を取り直して本屋の参考書コーナーでは塩田さんが結構偏差値の高い参考書を選んだ。
 彼女は今弁護士を目指している、一昔前までは心に余裕のない…… 妥協を許さない人だったけど、今では小さな幸せを守るために弁護士を目指していた。
 正直ここは羨ましかった。
 何しろ私にはやりたい事が無い、一学期の頃の進路希望調査に『進学』と書いたけど、正直大学に行っても何かしらやりたい訳じゃない。
 かと言え就職するにしても特別やりたい職業がある訳じゃなかった。
「じゃあ今度は一緒に服を買いに行きましょうね、絶対ですよ?」
 まだ諦めて無かったのか、この人は……
 とにかくお金貯めておこう…… 今いくらあったっけな?
 そんな事を考えている時だった。
「いや〜、君達良いねぇ」
「えっ?」
 私達は首を傾げた。
 1人の男が私達の方に近付いて来た。
 黒いニット帽に黒い眼鏡と緑のベストとジーンズと言う姿の男は首から下げているカメラで私達を除いていた。
 年齢は20代後半…… カメラ小僧って言う年じゃ無いだろうけど、何だか軽い感じの人だった。
「あの、何かご用ですか?」
 私は少々身構えて尋ねる。
 塩田さんもこう言った人は苦手でみたいで同じような表情をした。
「あ、ごめんね。ボクはこう言う者なんだ」
 彼はベストから名刺を取り出して私達に差し出した。
 私は名刺を見ると目を丸くした。