SAⅤIOR・AGENTⅡ
それからしばらくして警察は到着し男は取り押さえられた。
被害者の女の子は私達に向かって頭を下げた。
「ありがとうございました。貴方達のおかげです、何とお礼を言って良いか……」
「あ、いえ、私は別に何も……」
私は手を振りながら言う。
本当に凄いのは塩田さんだからだ。
何しろこの人は弁護士目指すより格闘家でも目指した方が良いんじゃないかと思うほどだ。
そう思うと塩田さんが言って来た。
「でも災難でしたね、気を付けた方が良いですよ」
「はい、本当にありがとうございました。あ、ごめんなさい、自己紹介が遅れて…… 私、最近この町に引っ越して来た『伊藤唯』って言います」
「じゃあ春から桜星高校に?」
「えっ? もしかして貴女達も?」
「はい、私達は1年…… と言ってももうすぐ2年生ですけどね」
「そうなんですか、実は私も2年生で編入するんです」
伊藤さんは両手を合わせると顔を明るくしながら言った。
どうやら来月から友人が増えて少し賑やかになるみたいだ。
袖振り合うも多少の縁、って言う事で私達は伊藤さんを誘ってショッピングとなった。
まず向かったのは塩田さんの強い希望(と言うより強制に近い)によりブテックだった。
私も伊藤さんも服に疎いので塩田さんに指導してもらう事になった。
すると目の色が変わった塩田さんは私達を試着室に押し込めると店内を回って洋服を片っ端から持って来て着替えさせられた。
「さすがです、やっぱり白金さんは何着ても似合いますね」
「そ、そうですか?」
私は頬を朱めると後ろの鏡を見た。
そこには赤いセーターの上から桜色のパーカーを羽織り、薄い茶色の膝丈まであるスカートとタイツと茶色いブーツを履いた私が映っていた。
髪型も少し弄ってツー・サイドにしてみた。こうして観ると何だか自分が自分じゃないみたいだ。
すると隣の試着室のカーテンが開くと着替えを終えたんだろう、伊藤さんが顔をのぞかせながら言って来た。
「あ、あの、着て見たんですけど……」
伊藤さんはそう言いながら私達にその姿を見せた。
その瞬間、私は言葉を失った。
試着室から出て来たのは本当に伊藤さんかと思いたくなるくらいだった。
メガネを取ってコンタクトになり、癖っ毛だった髪も整えてオレンジのシャツの上から薄い緑色の薄いセーターを羽織り、緑と白いラインの足首まであるスカートを履いていた。
塩田さんもここまで綺麗になるとは思わなかったんだろう、着飾るを通り越して最早変身としか言いようがないくらい綺麗だった。
まるで漫画みたいだった。
買い物が終わると次はカラオケやボーリングなどの娯楽施設を片っ端しから回って遊びまくった。
塩田さんも伊藤さんも歌もボーリングも意外と上手で高得点を出しまくった。
だけど私は歌は20点も取れず、ボーリングはガーターを出しまくり、ゲームセンターでは気が付けばクレーンゲームで2000円も使ってしまっていた。
遊び疲れた私は一休みに店内にある喫茶店を訪れた。
昔ながらのレトロな感じの内装にクラッシックの落ちついたBGMが流れている。
「はぁ……」
私は首を項垂れた。
折角の休日のテンションを下げてしまったからだ。
「白金さん、そんなに落ち込まないで…… ただの遊びなんですから」
塩田さんは慰めてくれた。
でも正直私には勉強しか無いんだなと思った。
これが兄貴ならもっと盛り上げてくれたんだろうけど、生憎私は兄貴じゃ無い、今はどこでどうしてる事やら……
すると塩田さんは目を細めながら言って来た。
「白金さん…… もしかしてお兄さんの事を考えてますか?」
「ええっ?」
私は両肩をビク突かせた。
図星だっただけに何も言えなくなった。
目を背けて肩をすぼめる私に伊藤さんは首を傾げて尋ねて来た。
「お兄さん? 白金さん、お兄さんがいるんですか?」
「えっ? ええ…… ちょっと訳ありで離れて暮らしてますけど」
「羨ましいですね、私なんて兄妹どころか親もいませんから」
「えっ?」
すると伊藤さんは悲しそうに顔を顰めると俯いて言って来た。
何でも2年前に事故で両親を失い、親戚の家に預けられたのだと言う。
何だか悪い事を言ったようで私と塩田さんは顔を見合わせた。
「ご、ごめんなさい、そんな事とは知らなくて……」
「私の方こそ…… 失言でした」
「ああ、良いんです、2人が気にする事じゃないですから」
伊藤さんは手を振った。
(2年前か、何だかますます縁があるなぁ……)
場の空気を何とか戻そうとしている伊藤さんを見て私は思った。
作品名:SAⅤIOR・AGENTⅡ 作家名:kazuyuki